まもなく時効
3〇八神家(夜) T (一九九六年平成八年)
八神一楓(21)がリビングでスナック菓子を食べている。八神文子
(48)が家のリビングでくつろいでいる。
文子「おばあちゃん、病院見舞いに行っても、全然しゃべれなくなっちゃった
ね。脳卒中やって失語症になっちゃったしパーキンソンもあるから筆談もできないし、病院入院してガクンと落ちて」
一楓「うん。話しかけてももう気力がないのか無反応。おじいちゃんもおばあ
ちゃんも定食屋の店たたんでまるでもぬけの殻」
文子「そうねえ店をたたんだあたりからよねえ。二人とも全然しゃべらなくな
った。認知症になるには早すぎるわよ」
一楓「うん」
一楓スナック菓子を食べている。
文子「おじいちゃんもおじいちゃんで店をたたんで最初は盆栽とかやってたけ
どもう今はその元気もないみたい。盆栽の枝が無惨に伸びきって。どこにも
出かけないし」
文子テレビのチャンネルを回す。
文子「おもしろいのやってないわね」
一楓「でもさあ、そんなおじいちゃんやおばあちゃんにも若い時期があったん
でしょう?」
文子「そりゃ当り前よ。二人にもちゃんと若い時期があったんだから」
一楓「へえ」
一楓スナック菓子を食べる。
文子「おじいちゃんおばあちゃんね。若いときにね。私の小学校の頃だった
か、夏なんかに近所に私を預けて二人で旅行に行ったりしたんだから」
一楓「ええ、おじいちゃんおばあちゃんにも青春時代があったんだ」
文子「あったわよ。誰にでも若い時期があるの」
一楓「うわあ、ロマンを感じるなあ。案外燃えるような恋する二人だったりし
て」
と一楓両手を握りしめながら言う。
文子「そうかもね」
と文子が笑う。二階から八神漣(19)が降りてくる。
漣「ちょっと、ちょっと、みんな発見、発見、大発見」
一楓「何?」