まもなく時効
22〇「もみじ商店街看板娘募集」の広告
節子「もみじ商店街看板娘?」
すず「そう。この商店街の看板娘の大会があるの。賞金は優秀賞五万円分の商品券」
朔太郎「で、誰が出るんだ?」
すず「そりゃあ、もちろん節子ちゃんよ。ここの商店街一の美人だし。絶対いけるわよ」
節子「やだ私もう四十過ぎよ。おばさんよ。からかわないで」
すず「からかってなんかいないわよ。節子ちゃん。本当美人よ。ねえ朔太郎さん」
朔太郎「いや、でももうおばさんだし」
節子「分かってますよ。言わなくていいでしょ。私出るなんて言ってませんよ。本当失礼ね。朔太郎さん」
すず「ええ、出ないの?もったいない」
節子「悪いけど出場はしないわ」
すず「節子ちゃんみたいな美人ほど控えめなのね。今の二十代の子なんか。写真いっぱいとって。水着になんかなっちゃって。そう言えば節子ちゃん、水着の写真とかある?昔の写真でもいいからさ」
節子と朔太郎顔を見合わせる。しばらく黙る節子と朔太郎。
すず「えっ?あるの?あるなら見せて」
節子「ありません」
少し強めの口調で言う節子。すず少しびっくりした顔。
節子「ごめんなさい。水着の写真なんてあるわけないじゃないですか」
すず「そうよね。ごめんなさい」
節子「朔太郎さん。明日は市場に行く日?」
朔太郎「ああ、築地に。早朝から」
節子「じゃあ早く明日の準備して休まないと。ごめんなさい、井上さん。今日はありがとう。たくさん注文してくれて」
すず「いえ、こっちこそごめんなさい。変なオーナー殴り込みしてしまって。本当申し訳なかったわ」
朔太郎「いいんだよ。じゃあ」
すず「じゃあ、失礼するわ。おやすみなさい」
すず店を出ていく。朔太郎と節子店に残る。朔太郎が店の奥の引き出し
から封筒を持ってくる。封筒の中から写真を取り出す。節子はお茶の用
意をしている。
23〇節子の水着姿の写真
節子、朔太郎の見ている写真に気づく。
節子「いやだわ。そんなの店まで持って来てるの?」
朔太郎「誰にも見せないさ。俺の生涯の宝物になるかもしれない写真だ」
節子「そんな恥ずかしいこと言わないで」
朔太郎「お前らしいよ。商店街のコンテストに出ないなんて」
節子「年齢を考えて。そんなのお門違いよ」
朔太郎「まんざらでもないんじゃないか」
節子「やめてください」
お茶を入れる節子。
朔太郎「今は水着を着た女性がテレビに出る時代だ。時代も変わったなあ。俺たちはどんどん取り残されていく」
節子「水着でテレビに出るなんて考えられませんわ」
朔太郎お茶を飲み一呼吸する。
朔太郎「心配するな。この写真は、お前と俺だけのものだ。絶対外には出さない。俺はお前を愛してる。約束したもんな」
節子「そうよ。約束よ。約束守らなかったら、私一生朔太郎さんのことを軽蔑するわ。私もあなたを愛してる」
24〇節子の水着姿の写真