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まもなく時効

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12〇定食屋「やがみや」 T (一九七四年昭和四九年)
   八神朔太郎(44)と八神節子(41)が定食屋で働いている。電話が
   かかってくる。朔太郎受話器を取る。
朔太郎「はい。やがみやです」
すずの声「あ、朔太郎さん。もうじき店開ける?」
朔太郎「まだ時間あるけど」
すずの声「じゃあいつもの届けてくれる?」

13〇井上家
   井上すず(60)が電話をしている。
すず「天ぷら盛り合わせと、海老とイカあるでしょ?」

14〇定食屋「やがみや」
   朔太郎が電話をしている。横に節子もいる。
朔太郎「ああ、あるよ。海老とイカね。それだけ?」
すずの声「あと魚のきすない?」
朔太郎「あるよ」

15〇井上家
   すずが電話をしている。
すず「よかったあ。今晩お客さんが来るの。出来るだけ豪華にしたいし。あとまだ頼んでいいかな?」

16〇定食屋「やがみや」
   朔太郎が電話をしている。節子が側にいる。
朔太郎「あいよ。なんでもいいな」
すずの声「山菜とかあるかな。タラの芽とかフキノトウとか」
朔太郎「タラの芽とフキノトウあったかな」
   朔太郎受話器を外して節子に向けて話す。
朔太郎「節子、タラの芽とフキノトウ、今うちにあったかな?」
節子「この間市場で仕入れたのがまだ残ってるはず」
朔太郎「あるんだね?」
節子「はい」
   朔太郎また受話器に耳を当てる。
朔太郎「井上さん。大丈夫。タラの芽とフキノトウ用意できる」
すずの声「よかったあ」

17〇井上家
   すずが電話をしている。
すず「お得意さんでもあってうちの花屋のオーナー。気難しい人だけどたまにしか顔出さないから。「やがみや」のおかずだったら安心できるわ」  

18〇定食屋「やがみや」
   朔太郎が電話をしている。節子も横にいる。
朔太郎「そうか」
すずの声「じゃあいつもの通り食べ終わったら、お皿返しに行く」
朔太郎「いつでもいいよ」

19〇井上家 
   すずが電話をしている。
すず「いいのよ。今日持ってく。見せたいものもあるし」

20〇定食屋やがみや
   朔太郎が電話をしている。
朔太郎「見せたいもの?何?」
すずの声「それは会ってからの秘密。夜皿返しに行くから。閉店までに行く。だから帰らないで待ってて」
朔太郎「ああ、分かった。じゃあ今天ぷら揚げたら持ってく。じゃあ」  
   朔太郎、節子に向けて話す。
朔太郎「今から天ぷらを揚げる。夜の開店までに間に合うだろう。大盛況だな」
   節子ニコッと笑う。
作品名:まもなく時効 作家名:松橋健一