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娘と蝶の都市伝説6

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あのころは、と顔中皺だらけのキムジャーは心でつぶやいた。
若くて颯爽(さっそう)とした日々は二度と戻らない。
眼鏡の向こうの皺の中の瞳が、うっすらと滲んだ。
「だいじょうぶ。毎晩、若い娘とベットインできます。医学はどんどん進歩していますから」
ポイドンが慰めをいった。

「パーティで三人も四人も……なつかしいなあ。毎晩、ニューヨークのテークアベニューの秘密クラブを借り切り、女優や歌手やモデルたちと夜を明かした。今の若い者は知らんだろうが、エリザベス・ティーラー、マリリン・モンロー、イングリット・バーグマン、ジャンヌ・モロー、グレース・ケリー、みんないい女だった。JFケネディのやつ、おれのマリリンに手をだしてその気になりやがって。おまけに許可もなく、ドルまで勝手に刷りやがった」

ドルの発行権はアメリカ国家にはない。民間の銀行にあるのだ。
陰でアメリカを支配する一族の銀行が、国にドルを貸し付けているのである。
彼らは世界の通貨であるドルの発行権を持つ強みを生かし、他国の銀行を自分の思うままにしている。
その本部はイギリスにある。
一説にはそこがすべての権力を握るデープステイトであるとも言われている。

ラリーは車椅子の肘掛から右腕をあげ、握った拳固から人差し指を突きだした。
「ばーん」
一瞬、部屋が静まり返った。
アメリカ国民のために働こうとしたJ・F・ケネディ元大統領は、車の座席に座ったまま後頭部に銃弾を受け、即死した。

が、濡れた目のキムジャーが皺だらけの顔を赤く染め、おかまいなしに後を継いだ。
「ソフィアローレン。あれはすごかった。一晩で二キロは痩せたな。目が覚めると朝」
ラリ―とキムジャーは、二人でからだを揺すり、ふぁふぁふぁっと笑った。ラリーはケネディを撃った人差し指の拳銃を胸に添えたままである。

「テークアベニューでは、いまも盛んなんだろうな」
キムジャーが、懐かしそうに両手を胸の前で組み合わせた。
ニューヨークのテークアベニューには、超高給のマンションや隠れたホテルがある。そのマンションのひとつが秘密クラブになっているのだ。だが、一般の人々には縁がない。

大富豪やその大富豪が認めた人物しか利用できないのである。
噂ではあるが、そこではフリーセックスとドラッグのパーティが夜な夜な行われていると言う。
しかも参加する女性も、有名な女優やモデルたちばかりである。
有名な男優がくるときは、大富豪の娘たちが大挙して訪れる。

漁夫の利を狙う男たちも女性を目当てに群らがる。
これらの催しは、古代ローマ時代から存続する権力者や大富豪たちのパーティとして浸透しているのである。
だから違和感はない。
「ソフィアローレンですか。ところで、三万年の長い間を生きるとなると、もしかしたら長期的な眠りがあるかもしれませんな」

横から蛸入道のポイドンが、忠告のつもりで口にした。
するとCIAの情報担当次官が、ここでちょっと補足させていただきますと、さらに続けた。
「三万年を生きるということですが、たしかな根拠があります。先ほども申し上げましたように、微生物たちです。地球誕生後、初めての生物は微生物でした。単細胞のまま三七億年ものあいだ変わらぬ姿で生きつづけ、その後はずっと陰で地球の生命を支えつづけています。例の毛皮は検査の結果、微生物たちが住みつき、毛皮を守っていることが判明しました。

毛皮に住む微生物たちは、毛皮を着ている人間の身体内部に住む仲間の微生物たちに『DNAに働きかけ、人間の皮膚からも毛皮を守る分泌物をだしてもらえるように頼んでくれ』などと要請していたようなのです。先ほども申し上げましたが微生物の集団と集団はパルスで会話を交わしています。このように、微生物をうまく使えば、あながち三万年も夢ではないと考えられます」

「だがその微生物、どうやってコントロールするんだ」
キムジャーが眼鏡を光らせる。
「それは、その点はまだ研究不足でして、電子顕微鏡の写真では、細胞同士がケーブルを縦横(じゅうおう)に引いて結び合っている場面が捉えられておりますが、どんなエネルギー使っているのか……またパルスを使って仲間内の種と連絡しあっているのですが、それぞれ異なる二種の言葉で通信しており、その仕組みもまだはっきりしていないそうです。まあ、おいおい答えは出るとは思いますが」

情報担当次官の言葉が勢いを失いかけたとき、隣にいた科学技術本部次官が背広の背中をかがめ、パソコンをのぞいた。
「あ、報告が入りました。ニューヨークのサウスブロンクスのネットカフェで、ジンギスハーンがデータにアクセスしたそうです」

ラリーとキムジャーとポイドンが、おお、と同時に歓声をもらした。
「やつは、逆探知を恐れ、自分のケイタイではなく、今はほとんどなくなったネットカフェを探してアクセスしたのでしょう。どこのネットカフェであろうと、ニューヨーク市内ならデータを呼びだして五分もしないうち、捜査官が駆けつけます。すぐにやつの正体がはっきりするでしょう」

二十二プラスXXかXYの対になった染色体には、DNA(ゲノム)が三十億個もならんでいる。
データとして発見された超変異遺伝子群はこの二十三の染色体に万遍なく散りばめられている。
従来のように、ある特定の場所に点在している訳ではないのだ。

発見した変異遺伝子が、現在の人間の生存年月をはるかに越える生命力を創造するのだとしたら、この技術の特許は莫大な利益を生む。
地球のリーダーにふさわしい地位も確保できる。
人はみな長生きをしたい。そのためならいくらでも金をだす。

もちろん貧乏人なんかどうでもいい。貧乏人はますます貧乏になってグローバル企業で働けばいいのだ。
食料生産の遺伝子変換技術とともに、人の遺伝子にまで手をだしたムサン社。
人類の富は、すべて自分たちのものでならなければならない、地球上の人類は自分たちの繁栄のために存在している──これが彼らの宗教的ともいえる信念なのである。

紀元前の遠い昔、一族は中東のある地域で栄えた。
だが、環境を破壊したため、その場所を離れざるを得なくなり、各地に散った。
一族はたちまち地域の権力者や王に金銭で取り入り、陰のリーダーとなった。
そして各地の仲間と連携し、団結力を強め、組織力を強めた。

近代になると金融界の支配をはじめ、エネルギー、IT、食糧、医療、薬品業界、そしてマスコミなど、人間が生きる上での必要な重要物件のすべてを手中におさめ、一〇〇パーセントの人々と呼ばれるようになった。
一〇〇パーセントの人々は、歴史的な時間を経、各地に散った民族との間に多少の遺伝子の異差はあった。

しかし、出身地域独特のベーシックな遺伝子配列とともに、ダーウィンの進化論を裏付けるかのごとく『物欲・陰謀・暴力』をうながす新たな変異遺伝子が彼ら一族のゲノムに加わった。

「300年、いいや、400年で手を打とう」
冷静になり、現実感を取りもどしたデイビッド・ラリーは、拳をぐっと握った。
「はやいところうまくやってくれ。おれもとりあえず400年でいい」
「400年あったら、またやりたいことをやってやる。おい、どうだ」
作品名:娘と蝶の都市伝説6 作家名:いつか京