小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

娘と蝶の都市伝説6

INDEX|7ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 



6-3 二老人の秘密会議



アメリカ、ミズリー州クレーブクルーのムサン本社ビル。
外壁を特殊な金属で飾りたて、業績通りに毒々しく輝く。
ドイツの会社がムサンを買収したが、実質は今までと変わらない。

特別会議室に、いま三人の男とCIAの上級幹部スタッフ二人の計五人がいる。
三人の男のうちの二人はソファに、一人は車椅子に、CIAの二人はパソコンが置かれたデスクに座っている。

車椅子の男は白髪をうしろに掻きあげ、鼻筋が真っ直ぐにとおった老人、デビル・ラリー。
今年で102歳になる。
もう一人も白髪で顔中に皺を(しわ)寄せ、眼鏡をかけた95歳のドリー・キムジャー。
三人めは、頭の半分禿げた蛸入道のような赤ら顔のヒット・ポイドン。
二人よりずっと若く、57歳。ムサンの会長兼CEOである。

ポイドンは今回の件に関しての責任者として、デビル・ラリーから特別に指名された。
遺伝子の組み換え製品でビジネスを世界的に展開するポイドンには、ぴったりの役柄である。
「実験のほうはどうだ?」
車椅子の白髪の老人は背凭れから顔を上げ、ポイドンに訊ねた。
「とにかくいろいろ実験を進めていますが、そう簡単ではありません」

「おい、なにを言ってるんだ。おれは100歳を越えたんだぞ。死んだという噂を流し、おれを罵るやつらの口を封じたが、本当に死んじゃうじゃないか」
ラリーはポイドンよりも赤くなり、車椅子を前後に軋ませた。
世界のあちこちで戦争をおこし、武器を売り、内戦状態で混乱した他国から金(きん)や石油などの財産を手あたり次第にかすめっとてきた。

となりの顔中皺だらけのキムジャーも声を張りあげる。
「おれは、もう一度世界を作り直したい。どんなに費用がかかってもいい。優秀なスタッフを世界中から集めろ。とにかく早くやれ。ラリーさんの命令でもあるぞ」
細くつりあがった目が、さらにきつくなった。

二人には切実な問題が迫っていた。それは死である。
しかし、特別な病にかかっているという訳ではない。
生きている者が迎えるナチュラルな死だ。
運命を悟りかけたとき、世界を意のままに動かしてきた二人は、とんでもない朗報に接した。
CIAの科学技術本部部長からの報告だった。

『人間の生命に関する超変異遺伝子群が発見されました。寿命が天文学的に延びるかもしれません。同時に、その他数々の驚異的な変異遺伝子も発見されました。詳細な内容は現在調査中です』
「天文学的に寿命が延びるだって?」
「永遠の若さだって?」

報告を受けたとき、居合わせていた二人の老人は、声をそろえた。
「でもすぐには使えません。現在、すこしずつ研究を進めているところです。検体を検査した解読装置の注釈のように、これらの変異をたしかめる一番良い方法は、変異の持ち主に直接会うことです。そして検査をして、変異遺伝子の種類と、そrぞれをどのように活性化させているかを調べるのです。それにこの事件に関連した年代測定の研究所からは、三万年前の雪豹の毛皮のデータも発見されています」

「三万年前の雪豹(ゆきひょう)だと? 雪豹とどんなふうに結びつくんだ」
眼鏡をかけ、顔じゅう深い皺でおおわれた白髪のキムジャーは、ラリーになにか企みがあるときは右腕の実行者として、世界を飛び廻った。
デスクに陣取ったCIAの情報担当次官が、能面の顔で答える。

「想像の域をでませんが、雪豹の毛皮をまとった三万年前の人間が生きている、という結論になります。ただし、毛皮には特殊な微生物が関係しているとのことです。微生物という生き物は、最近になってDNA解明の次にでてきた地球生命に関連した新しい研究分野でありまして……」

「三万年前の人間が生きているだって? 毛皮とかの微生物の話はあとでいい。とにかく、三万年生きられる遺伝子組み換えの方法を、早く完成させろ。だが、三万年も生きていたら大変だから、おれの場合は、あと三〇〇年、いや四〇〇年でいい」

ラリーは、車椅子の手すりをばんと叩いた。
最初の超変異遺伝子群発見の報告とミーテングから、すでに一ヶ月がたっていた。
三人と二人は二回めの会合である。

「どうなんだ、ポイドン」
ラリーが、垂れ下がった瞼を人差し指で押しひろげ、向かい側のプロレスラーかとも思える大柄なムサンのCEOのポイドンを睨む。
「今回発見された変異はゲノムには、なんと微生物の遺伝子が全般にわたって紛れ込んでいるんです。なぜ混じっているのかは、ひき続き調べてもらっています。とにかく、このサンプルからは、想像を越えた人間の大変身が考えられます」

「想像を越えるとは、どんなふうにだ」
ラリーが苛立ったように質問する。
「微生物やアメーバーや虫や動物たちと会話ができるとかです。最近になって微生物が集団になるとパワーを発揮して、離れた集団と会話を交わしていることなども分かりました。他集団との交信の痕跡(こんせき)も発見されたところです。人がパルスで会話ができるようになるのです。その他、海中でも生きていけるとか、透明人間になれるとかいろいろです」

「おれは、微生物とかアメーバーとかと話しなんかしたくない。微生物やアメーバーはあとにしろ。その、透明人間になって四〇〇年生きられるようになるのに、あとどのくらいかかるんだ」

ラリーは、自国や他国から貪欲(ひんよくルビを入力…)に利益を追求してきた。
競争社会の概念はやるかやられるかであり、やられないためには、やるしかないという観念を地球上の人類に押しつけた。
彼ら強者からみれば、争いのない平和な世の中などはありえなかったし、共存共栄などという概念はちっとも利益にならず、怠け者たちが唱える絵空事にしか過ぎなかった。

とにかく今は、生命の限界に近づき、直面する恐怖におびえながらの余生であった。
だが、今回の超変異遺伝子群の発見で、俄然生気にあふれた。
「とにかく永遠の若さだ、ばか者。急げ」
ラリーが激高した。
ぎらぎらしたラリーのその眼には、物欲の限りを尽くしてやろうという心火がたぎっていた。



「今回の件がうまくいけば、なんだって欲しいままだろう。はやくその変異遺伝子を活用する方法を探しだせ、ばか者」
ラリーがじれ、車椅子の上で毒づいた。

「はい。それはやはり、この遺伝子を持った人間を直接調べることです」
ポイドンはそう告げ、太い首をひねった。
デスクに座る二人のCIAの最上級幹部、情報担当次官と科学技術本部次官をうながす。

「もうとっくに捕え、いろいろ調査していると思ったのに、なにをやっている。そいつはいまどこだ」
車イスに身をもたせかけたラリーは、首と身を乗りだした。
「まだ特定できていません。現在追跡中で、だんだん近づきつつあります。日本のエージェントの報告によりますと……」
情報担当次官は、デスクの向かい側でコンピュータを覗く、科学技術本部次官を目でうながした。
二人ともCIA長官のすぐ下の幹部で、政府の最重要事項企画会議のスタッフに加わっている人物だ。

CIAには長官の下に副長官はいない。
代わりに数人のセクション別の情報担当次官がいる。
作品名:娘と蝶の都市伝説6 作家名:いつか京