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娘と蝶の都市伝説5

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「いつもと違って、行先は告げずにでかけたんです。ゴードン・ブライアンという遺伝子の研究者が訪ねてきてから、なにかが急に変わってしまったんです」
アンナは不安そうに、前方の薄明かりの灯る通りに目を据えた。

実はゴードン・ブライアンは、ジェフ・エリックの知り合いだったのだ。
だが後日の射殺事件に関連し、アンナは知らない男だと警察に嘘の供述をしていた。
「あなたは、ジェフ・エリックとはどんな付き合いをなさっていたんですか?」
アンナの虚偽に気づいたが、コルビー警部補は、何食わぬ顔で質問をつづけた。

「私は、彼が仕事から帰る時間に、毎日彼のこの家に飛んできました。でも彼の部屋は動物の骨などでいっぱだったので、お客がきたときは居間で一緒に話を聞いていました。
そして警察から釈放されたとき彼は私に言いました。
『旅にでる。帰ったら正式に結婚をし、もっと広い家を買って趣味の部屋は別にしようって』」

助手席に座ったアンナの目が、すこしだけ明るくなった。
「では、ゴードンとエリックはどうやって知り合ったんですか」
「はい、ゴードンさんがある日の夕方、ふいに訪ねてきたんです」
「そのときの二人の会話を覚えていますか?」

「彼が初めてきたとき、私はヘッドホンで音楽を聴いていました。でも反対側のヘッドホンを耳からずらし、音楽を小さくセットしなおしました。『検体の陰毛の持ち主の髪は黒のはずで、白人ではありません。どこのだれなんです』『それよりも、あの陰毛からなにが分かったんですか。遺伝子用語をならべられても理解できません』彼は怒っていました。

ゴードンも言い返しました。
『結果はコンピユータで送りました。私は役目を果たしていますよ』
するとゴードンさんが、急に静かな口調になって彼に語りかけました。

『エリックさん。実はあの陰毛の変異遺伝子については、正確な内容がつかめず、私にも文章にできないんです。ただ言えるのは、染色体(せんしょくたい)のあらゆる部分に変異が広がっているということです。もしかしたら空を飛んでいるのではないか、くらいの想像さえしてしまいます。どうでしょう、あなたの知っている陰毛の持ち主に会っていろいろ調べ、二人でこの遺伝子を自分たちのものにしませんか』ゴードンは真剣な顔でそう訴えました。

『空を飛ぶだって?』もちろんエリックはびっくりしました。
『あくまでも例えです』そう言うゴードンも興奮気味でした。
エリックはこのとき、やっとことの重大さを理解したようにうなずきました。

『でも、会社の権利はどうなるんですか』エリックはあらためて訊ねました。
『ですからエリックさん、あなたと組む必要があるんです。後は私がうまくやりますから。とにかく、会社のデータは全部消してしまうんです。特殊な技術を私は持っています。実は、そもそも今回のの検体の存在を会社側は知らないのです。

例の検体は、私が出勤するとき、郵便係が抱えていたバッグの後ろにのぞいていた郵便物を、悪戯のつもりで抜き取ったものだったのです。ところが調べてみたら、とんでもなデータが出たんです。とにかくこれらの件については、私が独断で操作したコンピータ以外、データはどこにも残っておりません』ゴードンはそう説明しました。
はっきり覚えている訳ではありませんが、こんな内容の会話でした。

専門的な分析結果がインターネットで送られてきたとき、当然、彼はプリントアウトしていました。
その書類が奥の彼の小部屋のデスクの中にしまってあったので、彼はゴードンとともに奥の狭い部屋に移って書類を取りだし、額を寄せ合い、説明を受けていました。

ついでにゴードンが使ったデータの消し方なども遊び半分で教えてもらったそうです。
とにかく二人はその時点ではかなり気が合い、夜になると家で遺伝子に関する講義をゴードンから受けていました。
彼も一応は科学者ですから、かなりのレベルまで理解するようになったと思います。

そんなときゴードンが電話で言ってきたんです。
『例のデータを完全にコンピュータ上から消した際に、自分のパソコンに残しておくのをうっかり忘れてしまった。プリントアウトした書類を貸してくれないか』
『コピーをして渡す』『コピーは、コピー機の本体にデータが残ってしまうので絶対にしないように、とにかくあなたが持っている書類そのものをちょっと貸して欲しい』エリックは私に言いました。

『やつがどこでどう気が変わったのか、不自然な要求をしてきやがった。そればかりか、ハッカーの技術を生かして、自分に送ってきたパソコンのデータや通信記録も消してしまいやがった。自分にハッカーの技術を教えて油断させるつもりだったのか、あのデータを消したのは間違いなくやつだ』怒りました。

『検体に使った陰毛はどうしたのか』エリックがゴードンに訊きました。
『検体を盗みだすとき、折り畳んだハンカチの間に挟み込んだのだが、あとで広げてみたらどこにもなかった』そう答えたそうです。
『やつはおれからデータを取り上げ、独り占めしようと謀(はか)っていやがる。さてどうしたらいいかだ』
エリックは困ったように腕を組みました。

そんなとき、家に強盗が入ったんです。
所持金や貴重品を奪われました。
その翌日、彼が家に帰るとだれかがドアを開け、内部に侵入していたのです。
男が、奥の部屋からでてくるところでした。

誤射事件はこうしておきました。
ゴードンは手にプリントアウトしたエリックのデータを持っていました。
事件を起こしたあと、エリックは私に『ゴードンは知らない男だ』と警察に言えと命じ、私は命令に従いました。
この件については市警の取り調べもあって、そちらのほうがよくご存じだと思います」

アンナは、運転席のコルビー警部補のほうに不安気な顔を向けた。
「よく分かりました。協力ありがとうございました」」
コルビー警部補は丸い顎でうなずいた。。
あなたの虚偽の供述については、今回は目をつぶっておきましょう、と心でつぶやく。

「エリックに、なにかあったのでしょうか?」
「捕捉(ほそく)で確かめたい件があっただけです。エリックさんからは連絡がないんですね?」
はい、とアンナはうなずいた。

「きっと、海外の連絡できない場所にいるのかもしれません。ところでそのDNA遺伝子の内容について、エリックさんはあなたに、なにか話しましたか?」
「SFの世界が目の前にある、と興奮していました」
「SFの世界か……」
コルビーはつぶやき、溜息をついた。

「ところで、検体の陰毛は本当にどこかにいってしまったんですか?」
「ゴードンは、地下鉄の駅でハンカチを広げてしまい、入ってきた電車の風に飛ばされてしまったんです。『大事な陰毛を落としたので探してくれ』とコンクリートの床面を這いまわりながら駅員に訴え、笑われたそうです。エリックがその駅にいき、駅員に事実を確かめてきました」

「その陰毛がだれのものだったかは、知っていたんですか?」
「いいえ。エリックも正体は掴めていなかったようです。『あの陰毛はだれの者なのか教えてください』というように電話で話をしているのを聞きました」
「その相手は?」
作品名:娘と蝶の都市伝説5 作家名:いつか京