娘と蝶の都市伝説5
「ヤンキースのねえちゃん、R階かい? へえーすごいね」
セフテイガード係がいないことを知った二人は、大胆になった。
ユキは、やっとシークレットサービスと間違えていたことに気づいた。
「おねえちゃんがタクシーから降りたとき、カモだってぴんときたぜ」
「あとをつけたら、すぐAREホテルに入った。こりゃあだめだと観念したら、ドアマンが、身分証を見せろともいわず、どうぞって入れてくれやがった」
二人で肩を寄せ合い、ひくひく笑った。
ユキは言葉が分からないふりをし、反応しなかった。
ドアが開いたが、身動きをしなかった。二人の男も動かなかった。
ドアが閉まる瞬間、ユキは飛びだした。
広間をダッシュした。ドアの四つの暗号を夢中でプッシュした。
中に入ったが、外から差し込まれた靴が、閉まるドアの邪魔をした。
ドアがこじ開けられ、男が肩から入ってきた。
ユキは部屋の奥に走った。リビングを通りすぎ、キッチンに飛び込んだ。
台所があり、テーブルに椅子が並んでいた。
キッチンの背後に、もう一つドアがあった。
その部屋の真ん中に、大きな冷蔵庫が置かれていた。
ユキはケイタイを取りだし、ダンに連絡しようとした。
しかし、足音がドアの外で立ち止まった。
ユキは冷蔵庫のドアを開けた。
冷凍庫付きの大型の冷蔵庫だ。未使用の冷蔵庫はひろびろとしていた
下段の引き出しを開けると、大きなボックスになっていた。
他に逃げる場所はなかった。
ほんの少しの時間なら大丈夫だろうと思った。
足から入り、内部で体を丸め、膝を抱えて横になった。
天井に手の平を当て、ボックスをスライドさせた。
中が真っ暗になると、じーんと低い音が響いた。
急ぎ、またケイタイを取りだした。
だが、いっせいに冷気が襲いかかり、指がかじかんだ。
そこは高性能の瞬間冷凍庫だった。
痺(しび)れる感覚が一瞬のうちに生(なま)の体に襲いかかった。
吸い込む胸の息が、尖った氷のように内臓に突き刺さった。
だが、それが妙に心地がよかった。
二分くらいたった。
二人の侵入者は、獲物を咥えこんだ動物のように低く唸る冷蔵庫を無視した。
三分……四分……。
ユキのからだがみるみる冷えていった。
たまらなく眠くなってきた。
そのころ、本物のシークレットサービスが駆けつけ、部屋にいた二人の男を拘束した。
女なんて知らないよ、ドアは開いていたんだ、と男たちは嘘ぶいた。
シークレットサービスが部屋を探したが、男たちの言うとおり、ユキの姿はどこにもなかった。