娘と蝶の都市伝説4
メキシコ侵略の経験からだった。
はじめはキューバの乗っ取りである。
スペインはキューバを砂糖の島に変え、二千もの大農園を出現させていた。
そんなとき、スペインの圧政に抵抗する有志が現れた。革命騒ぎである。
アメリカはさっそく、新鋭戦艦、メイン号をハバナ港に停泊させた。
キューバに住むアメリカ人を保護するという名目である。
ところが1898年2月、メイン号は謎の爆発で、乗員165人とともに沈んでしまう。
計画どおり、スペインに爆弾を仕掛けられたと喧伝し、戦争のきっかけを作った。
「リメンバー・ザ・メイン」(メイン号を忘れるな)
新聞が書きたて、アメリカ国民が激昂《げっこう)した。
二ヶ月間の海と陸の戦いで、アメリカが勝利をおさめる。
もっとも、戦う前から勝敗ははっきりしていた。
アメリカ軍六千人に対し、スペインの守備隊はたったの七百人だ。
しかもアメリカ軍は、キューバの革命軍を応援すると称しながら、勝利の瞬間、革命軍から主導権を奪い、キューバを自分のものしてしまうのである。
同じようなやりかたで、フィリピンも手に入れる。
スペインの植民地であったフィリピンでも、圧政に苦しむ民衆が立ち上がった。
アメリカは民衆側の革命軍を支持すると宣言し、武器の援助を申し出た。
革命軍は悪戦苦闘の末、ついにスペイン軍をマニラの石造りの砦、イントラムーロス内に追い詰めた。
そしていよいよ決戦というときだった。
イントラムーロスを取り囲んだフィリピン革命軍に、突如、アメリカ軍が襲いかかったのである。
『革命軍の兵士がアメリカ軍の兵士を撃ってきたので、われわれはやむを得ず革命軍と戦った。我々には反撃する権利がある』
アメリカ軍の司令官はそうのたまった。
「十歳以上の男は皆殺しにしろ。村を焼いて殺しまくれ。アメリカ軍の恐ろしさを思い知らせろ」
総司令官のスミス将軍が命じる。
20万人以上が虐殺され、フィリピン国民は無言のまま、アメリカに従うことになる。
だが、これら白人たちが行った恐怖の歴史的事実は、以降しっかり封印される。
他の東南アジアの国々同様、人々は植民地時代に行われた自国の悲惨な歴史的事実に無知である。
次はハワイだ。ハワイの王であるカメハメハ大王は、アメリカからプロテスタントの宣教師を招いた。
改革に際し、アメリカ人の宣教師を教育大臣に、また弁護士を法務大臣に任命した。
アメリカ人の法務大臣は、さっそくハワイの土地法の改革に着手した。
カメハメハ大王の跡を継ぎ、カラカウア新王が即位したとき、ハワイの八十パーセント近くの土地がアメリカ人のものになっていた。
しかも、新地主たちのほとんどが、企業家に転じたプロテスタントの宣教師たちであった。
彼らは争って砂糖黍畑やパイナップル畑を開墾した。
さらに、ハワイの港や土地はアメリカ以外の国には渡さない、という条約まで存在していた。
いつのまにかハワイを植民地化していたのである。
新王は、同じ太平洋にある独立国の日本に行き、天皇に助けを求めた。
しかしうまくはいかず、失意のうちに病死し、妹のリリウオカラニが王となった。
アロハ・オエの作詞者である王女は、兄の無念さを知っていた。
王に即位すると同時に新憲法を発布し、アメリカ人がくる前のハワイに戻そうとした。
アメリカはすべてを予期していた。
アメリカ公使のスティーブンスは、ハワイに寄港していた自国の軍艦、ボストン号の艦長に海兵隊の上陸を依頼した。
『アメリカ人の命と財産を守る』という名目だった。
武力でハワイ王朝を屈服させたのである。
ついでリリウオカラニ王女を退位させ、翌年、ハワイ共和国を誕生させる。
「つぎは中南米の国々だ。正義の国、平和を愛する国、民主主義の国、自由平等の国、慈愛《じあい)に満ちたキリストの国がなにをするのか、見ものだな」
BATARA《ば た ら)のだれかがつぶやく。