小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

娘と蝶の都市伝説4

INDEX|8ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

ときには訳の分からない書類にサインさせられ、大勢の白人に移住を強要されたりもした。
当然、刃傷沙汰《にんじょうざた)にもなった。被害者はもちろんインディアンである。

ここにいたって、マサソイト族の酋長であるトマホンがついに立ちあがった。
インディアンを追いだし、郊外に農園を構えた家々が襲われた。
インディアンたちのはじめての怒りであった。
入植者の四分の一、350が殺された。
白人たちはおどろいた。

しかし、まともに戦っては全滅させられる恐れがあった。
このとき出てきたのが、プリマスで顔役になった鉤鼻の男だった。
「平和協定を結ぼうと言っておびきだすんだ。儀式には開拓民全員が参加するので、そちらも近隣の全住民に参加してもらいたい、とな」

男は鉤鼻を指先でひねった。
切に平和を願う単純なトマホンが、低姿勢の白人を信じ、言われたとおりにするであろうと見抜いていた。
誘いだされたインディアンたちは着飾ったまま、全員が惨殺《さんさつ)された。記念品として死体の頭の皮が剥がされ、酋長の首が町の辻に晒《さら)された。

先住民はもはや、邪魔者以外の何物でもなかった。
結局、アメリカ全土で五千万余りいたインディアンは、三万人ほどに減ってしまった。
九九・九四パーセントの先住民が殺されたのである。
文化の破壊どころではなく、キリスト教徒たちのジェノサイドだった。

こうして白人たちは、虐殺《ぎゃくさつ)につぐ虐殺を重ね『約束の地』を手に入れる。
そんなとき、イギリスが黒人奴隷《どれい)の売買をはじめる。
北米のインディアンはプライドが高く、奴隷を拒んだ。
しかし、発展するアメリカでは、多くの労働力が必要だった。
北米でも南米でも、奴隷売買は大歓迎だった。

黒人奴隷もインディアンと同じように聖書に表記されていない人であり、人間として扱わなくてよい──言葉を話す家畜だった。
華々《はなばな)しく経済発展する国家には、いつでもこのような家畜がごとき人間が必要だった。

そのころ鉤鼻の一族は、鉄道事業に手をだしていた。
線路を敷いて駅を建設すれば、周囲が商業地になり、住宅地ができる。
ただの平原が高値で売れるのだ。
政府は、鉄道事業者に路線周辺開発の権利を与えた。
一族は石油、石炭、鉄鋼などの資源を優先的に開発し、有り余る資金を手に入れた。

やがて鉄道業は、線路の材料である鉄鋼産業と結びついた。
それが軍需産業へと発展していくのである。
兵器産業は戦争がなければ成り立たない。
アメリカは、このときから戦争が大好きな暴力国家になった。
表で平和をかかげ、裏では暴力や戦争を望むようになったのだ。

また鉄道の建設には、イギリスの商人によって多くの苦力《クーリー)が中国から連れられてこられた。
過酷な労働環境に耐えるため、苦力はアヘンや麻薬を常用した。
それを供給したのは、建設主の鉤鼻の一族だった。
これを機に鉄道王は、世界の麻薬王にもなっていく。



1776年、アメリカはイギリスから独立。
そのとき、アメリカには大西洋側の十三州しかなかった。
だが、フランスやイギリス、スペインから領土を買い取り、国土を増やしていった。
次に狙ったのが、メキシコ領のテキサスだった。

はじめに、砂漠地域のテキサスに綿花栽培のアメリカ人が入植する。
入植者が増えると『ここにはアメリカ人が多いから共和国を造ろう』とだれかが言いだす。
それを支援するアメリカ人が応援に駆けつける。
だが、応援者たちが組織した軍は、アラモの戦いでメキシコ軍に敗れる。

『リメンバーアラモ。わが国の自由を守れ』
口々にスローガンを掲げ、ぞくぞくと義勇兵が駆けつける。
メキシコと本気で戦えば、勝つことは分かっていた。
経済力も武力も数段上だったのだ。

アメリカは国境に軍を派遣し、メキシコ内に侵入する。
メキシコ軍が反撃してくると、こう主張した。
『敵が先に手をだしてきた。われわれには反撃する権利がある』

アメリカは、ニューメキシコ、カリフォルニア、ネバダ、ユタ、アリゾナを手に入れる。
メキシコは領土の半分を失う。
このとき、一時的にメキシコシテイを占拠した海兵隊の司令官は、黒船で江戸にやってきたペリーである。

後日、江戸湾にやってきたペリーは、ただ日本に開国を迫ろうとしたのではなかった。
沖縄、小笠原諸島に住む白人に、そこを自分たちの領土だと主張させようとした。
だが、アメリカ海軍に反対され、断念した。
それは、日本人が他の有色人種とまったく異なる人間であることに気づいていたからである。

有色人種を言葉をしゃべる家畜とみなしていた白人には、数千年もつづく国家と教養豊かで勇敢な武士や白人と堂々とわたりあった官僚、大きな家に住む農民、ほとんど泥棒のいない識字率世界一の国民、統制のとれた世界一の大都市、江戸に肝を冷やした。

ついで白人の神様の魂胆《こんたん)も見事に見抜き、神父たちを追放さえしたのである。
自分たちよりも優れた国家だとみなしたのだ。
こんな有色人種がいたのかというおどろきと恐怖が、後の日本の運命を決定づけ、202☆年の現代にまで及ぶのである。

黒船が来航した翌年の日米和親条約で、日本は重大なミスを犯した。
1854年の為替のカラクリだ。
両国で確認した金と銀の交換率は、慶長《けいちょう)小判一枚が日本の一分銀四枚。
またメキシコの銀貨も四枚だった。
ところがメキシコの銀貨一枚は、日本の一分銀四枚と交換できたのだ。
結果、ぐるっと一回りし、メキシコ銀貨一枚が日本の小判一枚という計算になったのである。

日本の小判一枚をメキシコに持っていき、四枚のメキシコ銀貨に替える。
それを日本に持っていくと四枚の小判になるのである。
これに気付かなかった日本の幕府は、多量の小判=金《きん)を失う。

金の消えた江戸の経済は混乱する。
慶長小判に比べ、金の含有量が四分の一の万延《まんえん)小判をあわてて造ったが、ますます混乱するばかりだった。
幕府の信用は失せ、商人や庶民は新政府に期待するようになり、維新を迎えるのである。

1860年、アメリカに南北戦争がおこる。
濡れ手に粟で日本から得た金が資金となった。
貧乏人たちの移民集団であった北軍は、北との分離独立を望んだ大農園経営者たち富裕層の南軍に勝利する。
四年間のこの戦いで、両軍合わせ、90万人が戦死する。当時の男子人口の十人に一人である。

日本から金をせしめたアメリカの資本家や一部の特急階級の商人は、ここでも両軍に殺し合いを演じさせ、利益をむさぼった。
さらに、有り余る資金で南軍の借財の肩代わりをし、アラスカを720万ドル(現在の1億2000万ドル/90憶円)の現金で買うのである。

南北戦争が終わると、今度は日本を二手に分けた官軍と幕府軍の戊辰戦争である。
ここでは、南北戦争であまった武器・弾薬、装備品が両軍に売られる。
だが、日本最大の戦争を目論んだ武器商人や金貸したちであったが、幕府側が江戸城を無血で明け渡してしまったため、国が分裂する戦争は、回避されたのである。

そのころアメリカは、スペインが支配する中南米をいくらでも食い物にできると踏んだ。
作品名:娘と蝶の都市伝説4 作家名:いつか京