記憶喪失の悲劇
「友達を救うには、魔法使いであることを明かさなければいけない。そうなると、人間界にはいられなくなり、相手の記憶は消されてしまう。ただ、自分の記憶が消えるわけではないということであった。消してもいいのだが、彼女は消すことを拒んだのだ」
ということである。
もし、彼女を救わないとなると、記憶があるだけに、後悔の念が、一生残るというものである。
そのどちらかを選ぶのか?
ということになれば、最初は迷ってはいたが、すぐに答えは出る。
つまり、迷っているというのは、
「踏ん切りがつかない」
というだけで、最初から答えは決まっていたのだ。
それを分かっているのかいないのか、彼女にとって、まだ子供だとはいえ、
「一世一代の決断だ」
といってもいいだろう。
これが人生の、最初の節目となるのであった。
その魔法使いの女の子は、
「私は、まだまだ魔法使いとしては、未熟なので、今は訓練の真っ最中であり、自分の本分は、立派な魔法使いになること」
ということであるのは、百も承知だった、
正直、人間の世界に来るまでは。
「すべてが、そのために用意された世界」
だと思っていた。
「しかし、人間世界で勉強するうちに、人間の世界というのは、自分たちの都合のいいようにできているわけではなく、魔法を使ったからといって、そのすべてが解決するわけではない」
ということであった。
それは、すべてにおいて分かってるはずのことだったのだが、まだ子供のその女の子には、そのあたりの、
「リアルな考え」
というのは分かるわけではなかったのだ。
だから、本来であれば、
「友達を助けるためであれば、魔法を使って助けてあげて、そのまま普通に記憶を消されて、魔法の国に帰ってしまえばいいだけだわ」
と思うはずなのに、どうもそう思えない。
どうして、そう思いきれないのかということも自分で分からない。
「どうしたことだというのだろう?」
と考えるのだ。
そう考えると、堂々巡りに考えが入り込む、一種の、
「負のスパイラル」
というのだろうが、考えれば考えるほど、ロクなことはないのだ。
つまりは、
「私がその子のためにしたことで、自分がつらい思いをすることになるのだ」
ということが分かっている。
友達のためとはいえ、自分を犠牲にすることが本当に正しいのかどうか考えさせられる。
人間の世界にいれば、何があろうと、
「友達を助けるのが当たり前だ」
ということになるのだろう。
もちろん、魔法の国でも、その子が選ぶことは最初から決まっていると思っている。
逆に友達を見捨てるようなことになったのだとすれば、果たしてどうなるのか?
物語としては成立しないので、そんな話は、
「現実でも現れないだろう」
と思う。
もし、彼女が友達を裏切ったら、彼女はそれなりの制裁を食らうことになる。
「半永久的に、魔法使いにはなれず。記憶を失ったまま、どこかの夫婦の間に、人間として生まれ変わる」
ということになるかも知れない。
そういう意味でいけば、
「ひょっとすると、人間として普通に生まれてきた子も、魔法使いの国で、
「何かをやらかしてしまった」
とかいうことで、
「バツとして、人間として生まれ変わる」
ということになるのだった。
じゃあ、人間として生まれ変わったとすれば、もう、魔法使いとして生まれ変われる可能性を逸したということであり、
「これ以上の罰はないだろう」
ということになる。
そうなってしまうと、
「子供心の中にも、魔法使いとしての意識があることで、必ず友達を救わなければいけない」
と考えなければいけない。
それができないのは、やはり罰を受けることになり、
「結果として、これくらいの厳しいバツであっても、受けなければいけないのだろう」
ということになるに違いない。
それを考えると、
「考え方としては、人間も魔法使いも、あまり変わりない」
といってもいいのではないだろうか?
魔法使いでも、人間でも、考えていることは同じなのだ。
しかし、特殊能力を魔法使いが持っているので、人間に比べて、その制限は大きい。魔法使いの方が人間よりも、少しだけまわりを見れているから、そうなのである。
魔法使いは、人間を分かっていない。
人間は、魔法使いの能力と、その存在を知らない。
それぞれに、一長一短であった。
しかし、今回の問題をすべて魔法使いに押し付けるというのは、これが物語であり、物語であっても、人間の考え方は、
「そのすべてが人間中心だからだ」
ということである。
女の子はその子のために魔法を使い、すぐに魔法使いであることをその子に知られたがそのつかの間、こっちのことをまったく覚えておらず、昨日まで行っていた学校でも、近所でも、誰も自分たちのことを知らない。必然的に、魔法の国に帰らなければいけない。それは実に悲しいことで、人間は、まったく何のお咎めのないのだ。
「一体自分たちが何をしたというのか?」
人間を助けただけで、これでは、
「私たちは人間を助けるために存在しているだけだ」
ということになるではないか?
それを考えると、
「こういう物語は、やはり人間中心なんだ」
ということになるのであった。
だが、結局は、人間が作っている物語なので、
「人間が創造することであり、想像以上の創造はない」
ということになるのではないだろうか?
それを思うと、結局は、
「いかに、人間を感動させるかということを、魔法使いの女の子を使っていかに表現するかということに掛かっている」
のであった。
そんなことを考えていると、失った記憶の相手と一秒でも一緒にいるということの辛さが感じられるのであった。
大団円
そんな魔法使いの話を考えていると、つかさは、自分のことを徐々に思い出してきたような感じがした。
「きっとこれが、普通の人であれば、思い出すことは不可能かも知れない」
と感じた。
それだけ、相手の組織も本気になって、つかさに対して警戒心を持っていることだろう。
だから、この記憶喪失になる薬を注入させるには、かなりの気を遣ったはずだ。
つかさも、諜報員としては、実は、アメリカで訓練を受けていた。そのことは本人くらいしか、出版社では知らなかっただろう。だから、彼女の行動の奇抜さに、出版社の人も分かるわけはなかった。
それを思うと、
「彼女は、どこか不可解なところがあるが、仕事だけは、いつも最後にはキチンと行っている」
ということから、どうしても、
「彼女の力にすがる」
ということを上の方はしていた。
それは、彼女にも分かっていることで、
「お互いに利用しあえばいいんだ」
とばかりに、彼女には、この出版社において、探ることができるものがあったのだろう。
そして、だんだんといろいろなことを思い出していくと、
「自分の役目が分かってきた気がする」
と感じた。
風俗で、
「いちか」
として働くのも、その一環であったが、実はそれだけではなかったかのように思えるのだった。
そのことをもし知っている人がいるとすれば、