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オオサカタロウ
オオサカタロウ
novelistID. 20912
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Sandpit

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「なるほど、よう分かったわ。単独で来るつもりやったんやけど、モッサンが無理からついてきよった。色々気遣わせて、すまんな」
 ヤマタツが呟くように言い、三国はずっと気がかりだったことを口に出した。
「連絡が来たんですか?」
「柿虫からな。あいつは報連相がちゃんとしとるわ」
 三国はうなずきながら、感情を力いっぱい押し殺した。柿虫を完全に馬鹿にできないのは、まさにこういうところがあるからだ。それなりに見張っていたはずだが、いつ連絡を入れたのかすら分からない。ヤマタツは会話の記憶を少しだけ巻き戻して、三国の方を向いた。
「その、屋上の中学生ってのは、なんで分かってん?」
「朝飯食べた喫茶店が地元民の集まりでして。話を総合すると、中林環境サービスの社屋からそこの娘が見てたって可能性が、高いかなと」
「そのサ店、前通れるか?」
 ヤマタツが言い、三国はクラッチを踏み込んだ。学校の前の道はがらんとしていて、時折配達のトラックが往来するぐらいだった。柿虫はすでに学校の周りを歩き始めていて、ルートバンが道路に出るのを横目でちらりと見た。三国は喫茶シャレードの手前でスピードを緩めると、看板を指差した。
「この店です」
 ヤマタツが相槌を打とうとしたとき、店の前に路駐したままになっていたアコードセダンが急発進してUターンし、ルートバンの目の前に割り込んだ。三国が思わずブレーキを踏み、ヤマタツはドアグリップを掴みながら舌打ちすると、三国に言った。
「鳴らすなよ」
 三国はうなずいた。車の中には運転手しかおらず、あのカウンターに座っていた年上の方だった。だとすると、八時から今まで二時間も店にいたということになる。消去法で行くと、会話に出てきたT8000と見て、間違いないだろう。そのままルートバンを走らせ、学校の敷地が途切れた次の交差点を左に曲がったとき、ヤマタツのスマートフォンが鳴った。
 三国がスピードを少しだけ緩めたとき、ヤマタツは通話ボタンを押した。ずっと待ち構えていたように、柿虫が言った。
「あの、見つけました。はい」
「あったんか。そのまま歩いて、川の手前の交差点を左に曲がれ。その先にいてるから」
 ヤマタツが通話を終えるのと同時に、三国はルートバンを慌てて停めた。積荷が見つかった。ヤマタツと座席を入れ替えてしばらく待っていると、柿虫が小走りで走ってくる様子がミラーに映った。スライドドアを開けて中に入り込んでくると、柿虫は落ち葉や泥がついた白いレンガのような包みを差し出した。
「これです」
 ヤマタツはハンドルに手を置いたまま。口角を上げて微笑んだ。明るい時間帯に探したのが、功を奏した。後部座席から顔を出す柿虫に笑顔を向けた後、三国に言った。
「オッケー。仕事は完了やな。おれはモッサンと戻るけど。お前ら、来るか?」
 それは、トミキチに会いたいかという意味でもある。正気を保っている人間なら首を縦には振らない。間の長さで返事を察したヤマタツは、苦笑いを浮かべた。
「ほな、うまいこと言うといたるわ。駅でええか?」
「お願いします」
 柿虫も身を少しだけ乗り出して、言った。
「あの、自分も」
 ヤマタツは手の平で転がすようにシフトレバーを操作しながら、笑った。
「分かっとるわ」
 

「なんも、おらんやろー? よーく見てみ? 町はこんなに平和です」
 水島が言った。いつも、バイクの後ろに乗るときはそれなりの準備をしてから飛び乗っている。今日は突然だったから、目は乾くし、ヘルメットから露出した頬は紙やすりの表面のようにざらついている。川端は『授業中はしずかに』と書かれた壁の前で、小さく息をついた。
「せやな。いかにも昼間って感じがするわ」
 午前十時半。冬場なら、長距離走の授業で外周を走る中学生がいる。今は、空がからっと晴れているだけで、町全体は死んでいるように静かだ。中学校の周りをぐるりと周回していると、グラウンド越しに中学校の教師数人と目が合った。夜中に排水溝の中を探っていた大人と、昼間に制服姿でバイクを乗り回している高校生カップル。どちらが風紀を乱しているかと言われれば、大して変わらないだろう。川端は元の道に戻り、喫茶シャレードの前を通り過ぎる辺りで水島に話しかけた。
「昼飯は、どうしたい?」
「えー? 強いて言うなら、食べたいかな」
「それは分かってるよ」
 川端は笑った。水島が合わせて笑い、その感触が背中越しに伝わってきたとき、河川敷に通じるスロープからシルバーのセダンが上がってくるのが見えて、川端は目を凝らせた。あの古い車だ。フロントバンパーに草が絡みついている。スロットルを開けると、背中から声がかかった。
「おーい、ノブ。どうしたん?」
「あの車や。まだおったわ」
 水島は、川端に見えている景色を共有しようと首を伸ばした。橋の終点にある信号が赤信号に変わり、ちょうど古い車のブレーキランプが光ったところだった。少し長めに間隔を空けてバイクを停めた川端は、エンブレムを読み取った。
「セフィーロやって」
「へー」
 水島は関心がなさそうに相槌を打つと、後ろを振り返った。川を渡ったら、驚くほど田舎になる。ここは、町の終点だ。自分たちと同じ方向についてきているのは、車が一台だけ。どことなく、心細い。自分たちは、何かを置き去りにしようとしている。直感的にそう思った水島は、前に向き直った。
「なあ、お昼さ……」
 続きを言いかけたとき信号が青に変わり、セフィーロがゆっくりと発進した。水島がそれ以上言葉を発するのを諦めたとき、川端はクラッチを繋いでスロットルを開けた。片側一車線の長い直線に入ったとき、助手席から手が伸びて、バックミラーを調整するのが見えた。
 ハンドルの上面をコツコツと叩きながら、モッサンは呟いた。
「で?」
 吹谷は自分から見えるように調節したバックミラーを目線だけで見上げて、言った。
「ヤンキーカップルです」
 モッサンはセフィーロのアクセルを少しずつ踏み込み、上り坂でスピードを上げた。時速七十キロに達したとき、もう一度吹谷の方を見た。
「どうなった?」
「離れました」
 吹谷は短く言うと、バックミラーをモッサンの方へと曲げた。自分以外では、三国と柿虫の二人しか知らない『機密情報』。あれは、夜に空ぶかしで追い払ってきたバイクだ。赤色で、同じような背丈のカップルが乗っている。
「高校生が昼間から、どこにシケこもうとしてはるんでしょうな?」
 モッサンが銀歯だらけの歯をむき出しにして笑い、ウェイストポーチの位置を調節した。吹谷は神経質な愛想笑いを返した。その仕草を見ていると、いきなり引き金を引くのではないかと不安になる。使っている場面は見たことがないが、モッサンの見た目だと十人ぐらい手にかけていると聞いても、特に驚かない。
「家がこっちなんちゃいますか?」
「わはは、アホやなお前」
作品名:Sandpit 作家名:オオサカタロウ