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神のみぞ知る

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 としてしか見えていないということを自分でも分かっているからではないかと思うのだった。
 そのせいもあってか。北条は、違和感なく結界に入り込んでいった。その時、途中まで差し掛かった時、
「あれ?」
 と感じたのだ。
 結界に入っている部分、逆に結界に入っていない部分で、
「まるで、身体が二分割したような感覚だ」
 と思えた。
 ちょうど結界の部分に、その結界が組み込まれて、
「果たして、どっちが、現実社会なんだ?」
 と思ったからだ。
 結界に入っていない自分が本来の自分だということを感じたので、その瞬間、結界の中に入ることすらできなくなった。
「ここは、最初と最後の気持ちが同じで、結果、途中もまったくブレていない」
 という感覚になったのであった。
 北条はそう思うと、
「この結界を、いかに抜ければいいのか?」
 という思いと、
「まさか、このまま中途半端なまま、動くことができないのではないか?」
 と感じるのであった。
 動かそうとすればするほど、自分が、冷静になってきて、頭の中では、過去にあったことがフラッシュバックしてくるのだ。
 この性格は、北条の中にずっとあったというもので、今に始まったことではなかったのだ。
 それを思うと、今度は、なぜか頭の中に、
「少し先の未来までもが見えているのではないか?」
 と感じるのだった。
「そう、少し先の未来……」
 そう思うと何か違和感が感じられた。
「少し先ではなく、少し前」
 つまり、
「少し前の未来?」
 と、そう思った時、結界に釣り込まれてしまったかのように感じた。
「ああ、吸い込まれてしまう」
 と感じると、目の前にある扉のようなものが開いて、その先に放り込まれる気がしてくるのだった。
 足だけで必死に突っ張ってみたが、そんなムダな抵抗が続くわけはない。
 目の前に見えているその状況を、足元だけが、どうすることもできずに必死にこらえている。
 それを思うと、
「越えられない結界が、越えられる」
 と思った瞬間、取りこまれてしまった。
 感じるよりも、何よりも、すぐに取り込まれた。
 そして、その結界が、北条を包んだまま、その世界から消えてしまったのだ。
 だから、そこで、北条が消えてしまったということを誰もしることなどできるはずもない。
「北条は、どこに行ってしまったというのだろうか?」
 と感じると、畜生道では何でもありの、近親相姦、下手をすれば、獣姦などという、口にするのもおぞましいことが、許される、
「少し前の未来」
 という、矛盾した世界が広がっているのだった。

                 餓鬼道

 沖田と北条が、前述のようになっている間、アジトでは、
「時間が来た」
 ということで、今度は、餓鬼道へと向かう
「頼光」
 が控えていたのだ。
 頼光は、ここまでの自分の運命について、アジトの中で、じっと腕組みをして考えていた。
 頼光は、四人の中では一番、
「ある意味、人間らしい」
 と言えるのかも知れない。
 頭の良さであったり、感受性の強さ、感情が表に出やすいなどという意味で、一番の問題を抱えているというだけではなく、
「いかに、先に進んでいけばいいの?」
 ということも、一番考えているだろう。
 他の皆も考えていないわけではない。考えているには考えているが、まったく自分の中で反応と呼ばれるものがないと言ってもいいのではないだろうか。
 それだけいろいろ分かるのは、
「俺が、精神疾患を持った人と、これまでに関わってきたからではないか?」
 と感じるからであった。
 どのようにかかわってきたのかということを考えると、正直、よくわかっていないというのが本音であったが、
「それが全員ではなく、一人だ」
 ということなので、苛立っている時がある。
「一人を分かることもできないのに、皆を分かろうなどというのは、おこがましい」
 と言ってもいいのだろうが、それだけではなかった。
 というのは、
「一人のことも、皆のことも、結局は同じ大きさなのではないか?」
 と感じるからだった。
「一人を分かることができれば、ある程度は網羅できるのではないか?」
 と思うからであって、その考えが頼光の中で、次第に膨れ上がっていくということを自覚してくるのである。
 頼光の性格を、
「一番人間らしい」
 と思ったその一つに、
「頼光は、他の三人に比べて、いや、それ以外の人を含めても、この性格は、特筆すべきものなのではないか?」
 と感じるのであった。
 というのは、
「何にでも興味深く見るところがある」
 ということである。
 それは、考え方として、
「深く狭く」
 あるいは、
「浅く広く」
 というわけではない。
 それでは、他と同じではないかということになるのだ。
 だから、頼光の場合は、
「深く広く」
 ということなのであった。
 そんなことを考えてみると、頼光は、自分の性格というものを、本当に理解できているのかどうか、自分でも分かっていないかのようだった。
 頼光は、自分のことを分かっているのかいないのか、自分でも迷いのようなものをかんじているのだが、その思いを他の人よりも強く持った状態で、
「餓鬼道」
 と呼ばれる峠のお地蔵さんの近くまでやってきた。
 賢明な読者ならご明察なのだろうが、目の前には、
「お約束の結界」
 というものが、張り巡らされていた。
 今度は色が、真っ赤であった。
 頼光は、その色を見て、自分の頭の中の、
「人間コンピュータ」
 ともいえる回転が、さらに慌ただしくなった気がした。
「なぜ、真っ赤なのだろう?」
 と考えた時、
「ここが、餓鬼道である」
 ということに注目した。
「餓鬼」
 そこには、鬼という字が入っているので、鬼と赤い色を想像すると、地獄絵図にあった。その地獄絵図の赤い色が、まるで池のように見えると、
「ああ、そうか、温泉での地獄めぐりで見た、血の池地獄のようなものではないだろうか?」
 と感じたことであった。
 なるほど、
「血の池地獄」
 ということでは分かった気がした。
 血の池地獄というものが、いかに想像できるものなのかということを考えると、
「池でもなければ沼でもないというところが真っ赤になっているのに、違和感というものがあるのだ」
 と感じたのだった。
「餓鬼道」
 というものを、
「基本、鬼だ」
 と考えてもいいものだろうか?
 精神疾患の持ち主と、付き合っていた経験から、いろいろ学んだが、
「しょせん、自分たちとは、住む世界が違う」
 ということであった。
 精神疾患に陥ってから仲良くなったわけだから、その相手というのは、病気を治そうとすればするほど、せっかく寄り添おうとした人を、踏み台にすると言うと語弊があるが、自分が這い上がるために利用するということに変わりはない。
 そして、そんな自分が、まわりの、
「罪のない人間」
 を自分と同じ状態に引き込んでいるということを理解していないのだろう。
「いや、本当は分かっているのではないか?」
 と、最近は感じるようになる。
 分かっているが、
「自分が這い上がるためには、仕方がない」
作品名:神のみぞ知る 作家名:森本晃次