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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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合格発狂(続・おしゃべりさんのひとり言136)

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受験中の娘に、これ以上動揺させるわけにいかない。
「取り敢えず、公立も受けてみ。受かってから考えよう」と僕。
「部屋の契約もまだ猶予はあるし、いい部屋が残ってなかったら、入学してからいつでも引越していいよ」と妻。
「私学の入学料は先に払わないと。マンション契約したら、家賃も払うんやろ。どっちかは無駄になるし」と娘。確かにどちらか2~30万は捨てることになります。
「それくらいいいやん」と強気に見せる僕。
「じゃ、受けるだけ受けてみる」と。
それで、なんとか話はまとまりました。
それで一時間ぐらい経って、不動産屋さんに折り返しの電話をしたのですが、もう相手は出られませんでした。
娘はその部屋の内部をネットで再確認したら、
「あ、これ一番いいと思ってた部屋や。満室やったんちゃうん?」
「そうやで、これママが電話して、空き部屋が出たら連絡くれるように交渉してくれてたんやで」
「そうやったんか。この部屋やったら、公立行ってもいいな」
何という判断基準なんだろうか(汗)
中途半端な状態のままことが進み、合格発表の日まで、僕の方が発狂しそうでした。

翌朝、不動産屋さんからもう一度妻にお電話をいただいたのですが、その部屋は一歩早く他の方が契約されてしまったそうです。すごく残念でした。
その物件は、大学まで徒歩5分。最寄り駅へも10分という好立地で、8畳1Kの他に、階段付きロフト(6.5畳)まであって、ディズニー+とWi-Fiが無料です。それでいて家賃5万円台となかなかの好物件だったのに。
「じゃ、次空きが出たら、絶対契約しますから、その時点で押さえておいてください」
と、不動産屋さんにはこういうお願いをして、仕切り直しました。
妻が言うには、
「私も一階の部屋は、女の子にはちょっと心配やってん。でも次空きが出る時は、二階以上が出ると思うわ」
何も根拠がない予想です。

それから3日ほど経って、また不動産屋さんから、
「実はこの前のマンションの別の部屋が空くことになったようですが、家主様がお電話してご説明したいとおっしゃってまして」
「ああ、そうなんですか? 是非お話を伺いたいです」
「では、お電話番号を家主様にお伝えさせてもらってもよろしいですか?」
「ええ、お待ちしてますので、よろしくお願いします」
妻が電話で、こんな会話をしているのが聞こえて来た。
(妻もなんのことやろ?)と思ったようだけど、空き部屋を紹介されたのだから、いい予感しかしないとのこと。
それから大分経ってから、そのマンションの家主さんからお電話をいただき、「是非その部屋を借りてほしい」と言われたそうです。
不動産管理会社からではなく、(家主直々になんで?)って思うでしょ。僕も不思議でした。
その理由は、まず、妻はいくつもの管理会社に電話して、「空きが出た場合、連絡を」とお願いしていました。
そして、この家主さんが持つマンションの空き部屋を取り扱う管理会社は複数あり、契約は各社の早い者勝ちとなるようです。
前回、契約を逃した一階の部屋は、別の管理会社で先に契約が成立してしまったそうです。その一件を電話をくれた管理会社の担当者さんが家主さんに話したところ、他の管理会社からも同様に「電話で問い合わせてくるお客がいる」と聞いていたそうで、そうまで熱心にうちの物件を希望されるならと、直接妻に声をかけてくださったと言うのです。
しかもその部屋は、家主さんのお孫さんが使用されていたのですが、今は別の街に就職されて引越されたものの、部屋だけそのままにしていたそうですが、今回はうちのためにそこを空けてくださるとのこと。しかもその部屋は二階の角部屋。
契約は管理会社に任せるから敷金礼金は必要ですが、家主さんの計らいで半額にしてもらい、更に家賃が発生する入居は4月からの予定でも、部屋が空き次第、3月から使用してもいいことになりました。
妻の完全勝利。後は運命の合格発表を待つのみです。

3月になってその部屋へ勉強机やキャビネットなど、家財道具を搬入しはじめました。
ところが、公立大学で嬉しい合格発表があった直後、娘は散々悩んだ末に、進路希望はやはり別の私立大学の方に行きたいのだと。
僕は本当に発狂しそうになりました。
家からその私学に通うには、電車通学で片道1時間以上かかります。
「毎日3時間くらい電車やで、もったいないで!」
 「そうやわ。その時間に遊んだりバイトしたりも出来るんやし」
  「何より学歴的にもいいねんで!」
夫婦そろって、考え直さないか聞き直しました。なんせ、一人暮らし用に新たに購入した鍋など調理器具セットにIH調理台、フードプロセッサー、浄水器、オーブンレンジとベッドのマットレスはどうすんの? これら全部娘の希望で買ってたのに。冷蔵庫と洗濯機は、そろそろそのマンション周辺で買うつもりだったので助かったけど。
妻も僕も、(きっと、公立に行ってくれる。頼む行ってくれ~!)と祈っていましたが、より都会的な街にある有名私立の方が、若い娘には魅力的だったようです。
かくして、頑張ってマンション契約した妻の努力も虚しく、娘は晴れて別の地で大学生となるのでした。
(決断力の遅さは相変わらずですが、もう自分の意思で歩く歳になったんだな)と嬉しくも思います。


     つづく