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探偵小説マニアの二人

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 この場合の質問というのは、出題者が回答するのに、3つしか選択肢がない質問をしなければ、その質問は却下ということになる。
 その3つというのは、
「はい」
「いいえ」
「関係ありません」
 というものである。
 最後の関係ないというのは、
「この質問は、問題とは関係のないことです」
 という意味の、
「関係ない」
 ということである。
 元々、このウミガメのスープというクイズの発想は、
「海で遭難した数名の人間が、無人島に辿り着き、生き残るために、死んだ人間の肉を食らってでも、生き残るということであったが、ある男性は、そんなことはできないと、自分が死んでも肉は食べないと思っていたのを見かねた人が、その人肉に細工を施し、ウミガメのスープと偽って、食べさせることに成功した」
 という、事前の前提があったのだが、それを隠しておいて、
「男は、中華料理屋に行き、ウミガメのスープを呑んだのだが、その後、自殺をした。なぜでしょう?」
 という問題を出したのだ。
 これだけでは、まさか、無人島の件に辿り着けるわけではない。だから。質問を受け付けることになるのだ。
「スープの味がいやだったので自殺をした」
「嫌いなスープを飲まされたことで、悲しくなりましたか?」
 などと、いろいろな質問をしてもらい、出題者が、
「はい」
「いいえ」
 で答えていくうちに、核心となる質問が来た時、初めて。
「それは、いい質問です。男はウミガメのスープの味に違和感を感じたから自殺をしたのです」
 というと、そこからが、回答者の閃きになるのだった。
 それを考えると、
「この事件は、ウミガメのスープのような犯罪なんだよな」
 と感じてきた。
 そこで、ひろ子は女将さんにいろいろ聞いてみたのだ。
 女将さんの方も、
「これは、ウミガメのスープの発想だ」
 ということを分かっているのか、ひろ子の質問を、ちゃんと受け止めている。
 それを受け止める女将もそうだが、ひろ子の方も発想としては、結構出てくるようで、二人とも結構楽しくなっているようだった。
「どうにも、この犯罪は、トリックというよりも、犯罪手段というか、どちらかというと、探偵小説のような、小説世界でしか成立しないものの典型のような気がするんですけどもね」
 と、ひろ子がいうと、
「なかなかいいことを言われていると思いますよ」
 と女将は、そういって、微笑んでいた。
「何やら、前の事件のお話との共通点として、表に出ていない犯罪というのが、出てきているような気がするんですけどね」
 とひろ子がいうと、
「その考えも、的を得ているような気がしますよ」
 と女将さんが言った。
「私は、この犯罪を、交換殺人の一種ではないかと思っているんですが、ほぼ正解ではないかと思っていても、何か、ピースが見つからないんですよね」
 とひろ子がいうと、女将さんは、少し目を丸くして、驚いているようだったが、ひろ子が完全に真相に近づいていないのを見て、半分ほくそえんでいた。
「この事件は、ここから先も後半戦のトラップがあるのよね」
 といってほくそえんでいる。
 女将さんの中で一つ思っているのは、
「百里の道は、九十九里を持って半ばとす」
 という言葉と同じことなのよね。
 と思っているのだった。
 つまりは、
「最後まで行き着くわけではない場合、まだまだ先は長い」
 ということを自覚していなければいけないということが考えられるということであるのだ。
 そんなことを考えていると、少しずつ分かってきた。ここまでくれば、ひろ子ほどの発想の転換のできる人にとっては、ある程度が、
「時間の問題だ」
 と言えるのではないだろうか?
「交換殺人というのは、そもそも、相手を殺すということに、まったく関係のない人が実行犯になる。つまり、主犯と実行犯が違うということがミソなのだが、そうすれば、実行犯はただの損でしかない。だから、その見返りに、自分も同じことをしようと持ちかけることだった」
 そして、ここからが、
「リアルでは難しいと言われるのだが、何と言っても、主犯に、鉄壁のアリバイを作る必要がある」
 ということなのだが、そうなるとネックになるのが、
「最初に犯行を犯した人間が、圧倒的に不利だということだ」
 というのは、
「自分が死んでほしい人間を。実行犯が殺してくれているので、今度は自分が実行犯のいう通りに危ない橋を渡る必要がない」
 ということで、
「リアルな交換殺人は無理ではないか?」
 ということである。
 しかし、逆に考えれば、
「もし、ここで、実行犯が殺されていれば?」
 つまり、
「鉄壁なアリバイを作っているはずの主犯が、その時死んでいるとすれば? しかもそれを、第一の事件の実行犯が知らなかったとすれば?」
 ということである。
 もちろん、偶然というものがなければ成り立たないものではあるが、その偶然というものが重なることで、主犯がいなくなったことで、本当に殺してもらいたい人を殺してもらえなくなった。実行犯は、もうこうなったら、殺してほしい人を、殺人犯にでっちあげるかしかないと考えるだろう。
 しかし、最初からの計画にないことを途中で組み込むなどできるはずもなく、結局、
「事件をややこしくした」
 というだけで、結局、状況は変わらなかった。
 逆に余計なことをしたために、自分の第一の実行犯が決定的な証拠を残すとでもいうようなことになり、
「すぎたりは及ばざるがごとし」
 になったりもしてしまうのだ。
「ああ、余計なことをしなければ」
 と思ってもそれは後の祭りだったのだ・
 ひろ子はそんなことを考えていると、今回の事件も何とか解決できたと思うようになったのだった。
 ひろ子は今回の記事に、
「ミステリーマニアの女将」
 ということを紹介すると、その温泉への客は、
「ひろ子効果」
 とでもいえばいいのか、客が結構増えたということだ。
 ちなみに、ひろ子が見た滝つぼの祠の前にある墓石に書かれていることであるが、今のところ、まだ誰も真相に近づいた人はいないという。
 これも、一種の、
「ウミガメのスープ」
 なのだろうか?

                 (  完  )
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作品名:探偵小説マニアの二人 作家名:森本晃次