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矛盾による循環

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「すべての窓にはカギが内側から掛かっていて、天窓のようなところがあったとしても、そこから、人間は侵入することはできない。さらには、隠し扉や秘密の抜け穴などという、昔の忍者屋敷のような仕掛けがないということ。さらには、合鍵などなく、あっても、被害者が密室の中で持っていたり、カギは、室内の、例えば机や、マントルピースの上に置かれている」
 などというだけの、完璧なものを、密室というのだが、機械トリックというのは、針と糸などを使って、天窓から、カギをまるでロープウェイのように、スルスルと、器用に、マントルピースや机の上に置いた後、最後に引き抜くなどという方法である。
 しかし、これは結構簡単に見破られるし、危険が大きい。
 何といっても、トリックを作る方法が、一発勝負であり、間違って、失敗したら、取り返しがつかない。なぜなら、密室だから、入ることも出ることもできない。落した時点でカギがそこにあるのは不自然で、
「天窓から、適当に放り投げた」
 と思われれば、それで終わりなのだ。
 そして、成功したとしても、よく調べれば、針の後が残っていたりすれば、一目瞭然で密室殺人ということは看破されてしまうということになる。
 つまりは、
「密室殺人」
 というのは、事件を怪奇なものとして、ミステリアスにすることはできるが、
「だからといって、密室で殺人が行われたとして、犯人逮捕とはほぼ関係がない。それこそ、犯人に自白させればいい」
 というもの。
 ただ、事件の解決として、密室の謎を解けなければ、犯人が分かったとしても、起訴はできないだろう。なぜなら、
「殺人事件というのは、その全容が明らかにならなければ、公判を維持することは難しいからだ」
 ということだからである。
 となると、密室殺人を犯すための考え方として、次に考えられるのが、
「叙述的な犯罪」
 ということである。
 その部屋が密室になり、密室になってから、殺されたということが分かったということあれば、まず、捜査員としても、
「密室の謎」
 を解くことよりも、もう一つの考え方をするようになるだろう。
 つまりは、
「犯行は、密室になる前に行われた」
 という発想である。
 どういうことなのかというと、
「不可能な密室、あるいは、犯人にとって、リスクの高い犯罪を考えるよりも、犯行時間をごまかすなどという方法で、密室ができる前に殺されたのを、あたかも、密室ができてから殺されたかのような犯罪」
 を考える方が、犯人としても、捜査員としても、ずっと考えやすいというものだ。
 今では、科学が発達していたりするので、ほぼごまかしは効かないだろうが、昔であれば、
「例えば、犯罪が行われたその時、どこか、他の冷たかったり、暑かったりした場所に放置しておけば、犯行時刻をごまかすことができる」
 あるいは、
「死体をバラバラにして、胴体だけをどこかに持っていった」
 と思わせるよりも、本当は、他で殺して、胴体以外を持ってくるということをすれば、捜査員が、
「犯行はここで行われた」
 と思い込むことで、アリバイを作ることができるという考えもできるのであった。
 それが、いわゆる死体損壊トリックとも絡めた犯罪ともなるのだ。
 殺人という犯行には、大なり小なり、
「叙述」
 のような考え方がないと難しい。
 つまりは、犯人が書いたシナリオで、捜査員が混乱をきたすというような、一種の心理的、トリックと言えるだろう。
「入らなければ出られない」
 というのが、昔の探偵小説の中での、密室トリックの、カギとなる部分なのではないだろうか。
 ただ、犯罪には、矛盾というものが存在していて、それらの問題が、いかに関わっていくかということなのだが、今回のお話で、
「長所と短所」
 という部分から、順平の心理的な部分を抉るかのように話をしてきたが、そのどこにも、矛盾という発想が絡んできている。
 そして、その矛盾というのは、
「全体を通しての矛盾であり、それらの矛盾というものが、錯覚に繋がっている」
 と考えると、最後の章で語った、
「密室殺人」
 というトリックが、ある程度の感覚を、網羅しているといっても、過言ではないともいえるのではないだろうか?
 というのも、
「密室殺人」
 というものが、心理的な犯罪に絡んでいるというものであり、
「マジシャン」
 のように、
「右手を見ろと言われると、実際には、左手で器用に細工をしているという、いわゆる、
「トラップ」
 というものが、心理的に働いて、
「まさか、そんなバカなことが」
 などという発想が、
「不可能を可能ならしめる」
 というものに変わっていくのである。
 いや、
「変わっていくわけではなく、心理的に変わっていくように、考えるよう、仕向ける」
 ということが、トリックとなるのだ。
 その中に、タイムマシンや、ロボット工学という発想、つまり、
「開発には越えなければいけないハードルがある」
 ということで、そのハードルが乗り越えることのできないものとなり、次第にタブーだということで、今度は、
「触れてはならないもの」
 ということになってしまうと、果たしていかに考えればいいのか、そこには、
「叙述という発想が生まれてくるものではないか?」
 という発想があるのだった。
 だが、
「ブームというものが、一定期間を境に、繰り返されるというものである」
 ということを、前述しておいたが、まさにその通り、今回のこの発想も、
「矛盾というものが、全体から見て、一定の期間で、ループしているのだ」
 と言えるだろう、
 そのループが、躁鬱症であったり、ウイルスによる、
「変異」
 のようなものであったりするのだった。
「矛盾による循環」
 これが、ただ繰り返しているだけなのか?
 それとも、
「負のスパイラル」
 というような、螺旋階段上に落ちていくものなのかということが問題となるだろう。
 微妙な関係による矛盾、それは本当に、必要なものなのだろうか?
 それこそ、
「神のみぞ知る」
 ということになるのだろう……。

                 (  完  )
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作品名:矛盾による循環 作家名:森本晃次