抑止力のための循環犯罪
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。今回もかなり湾曲した発想があるかも知れませんので、よろしくです。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。呼称等は、敢えて昔の呼び方にしているので、それもご了承ください。(看護婦、婦警等)当時の世相や作者の憤りをあからさまに書いていますが、共感してもらえることだと思い、敢えて書きました。ちなみに世界情勢は、令和5年1月時点のものです。いつものことですが、似たような事件があっても、それはあくまでも、フィクションでしかありません、ただ、フィクションに対しての意見は、国民の総意に近いと思っています。
通り魔事件
冬になってから、冬至が近づくと、日の入りが早くなり、あっという間に夜のとばりが下りてしまうのだった。
街の明かりは、乾燥した空気の中で、瞬くかのような様相を呈している。
「冬のこの時期が、一番夜の街がきれいに見えるな」
と思っているのが、会社からの帰宅の途中であった、
「渡会利夫」
であった。
渡会は、高校時代に家族でこの街に引っ越してきてから、そろそろ10年が経とうとしていた。
普通だったら、
「学校の友達と離れるのが嫌だ」
ということで、家族を困らせるものなのだろうが、
「今度お父さん、転勤になって、すまないが、ついてきてくれるか?」
というのが、お父さんの考えだった。
というのも、お父さんからすれば、
「単身赴任などすると、女房に不倫されたり、自分が寂しさから不倫に入ってしまって、もし抜けられなくなったら、どうしよう?」
という考えがあったのだ。
そんなことを女房子供に分かるはずもなかった。
そもそも、父親は、慎重なタイプなくせに、自分に自信が持てないタイプだったので、
「少しでも不安なことがあれば、すぐに流されるタイプだ」
と思っていた。
事実、転勤を言われた時、少しだけ、
「単身赴任」
というものが頭をもたげたが、すぐにその考えを打ち消して、
「いやいや、俺が単身赴任なんかすると、女房が不倫するかも知れない」
と最初に、女房の不倫を考えた。
しかし、単身赴任をした自分も、今度は、
「きっとひどい猜疑心に苛まれるかも知れない」
と感じると、不倫の心配をしてしまった女房に、
「悪いことをしてしまった」
と感じたのだ。
確かに、悪いことをしたということになるのだろうが、今度は、自分がそんな猜疑心を持ったまま、一人でいると、どこかのタイミングで開き直るのか、キレてしまうのか、
「自分の方が不倫に走るのかも知れない」
と感じたのだ。
元々不倫を疑った自分が悪いのだろうが、離れていると、どうしても、猜疑心が強くなる。
しかも、もしそんな時、赴任先で優しく声をかけてくれる女の子がいれば、不倫に走らないと言い切れない。
「いや、俺だったら、コロッと引っかかるかも知れない」
と感じたのだ。
つまり、
「猜疑心というのは、自分の弱い心に忍び寄ってくる」
というもので、その思いは、孤独感を激情させるものではないだろうか?
しかも、一人で悩んでいると、
「俺を悩ませたのは、女房なんだ」
と、
「悪いのは、俺ではなく、女房の方だ」
と思ってしまうと、どうしようもなくなるだろう。
女房との関係は、女房と喧嘩をした時は、
「必ず渡会が謝ることで肩がつく」
ということであった。
だが、
「明らかに渡会は悪くない」
ということになった時、自分からは決して謝らない。
それをいいタイミングで女房が察してくれて、謝ってくるので、事なきを得るのだった。
つまり、お互いに、気を遣っているというよりも、お互いを理解し合っていることが、「うまくいく秘訣だ」
ということであった。
そもそも気を遣う必要もなく、信頼関係は、何よりも強い絆を示しているのだ。
それを思うと、
「相手が謝らない時というのは、自分が悪いんだ」
ということを悟り、それを謝るまでもなく、態度に示せば、うまくいくといえるだろう。
それを、渡会も女房も分かるということから、
「今まで大きな喧嘩もなく、うまくやってきた」
ということであろう。
ただ、渡会には一つ大きな懸念があった。
それが、
「環境が変わったらどうなるというのだろう?」
ということであった。
それが、まさに今回のような転勤の問題であり、
「一緒にいないという決定的な距離の遠さを感じてしまうと、自分でもどうなるか分からない」
と、渡会は思っていた。
「女房も、同じことを考えているに違いない」
とさらに、感じるのだった。
渡会が、このK市にやってきたのは、その時の父親の転勤がきっかけだった。一悶着あったようだが、結局、
「しょうがない。ついていきましょう」
ということで落ち着いたのだ。
ただ、なぜか、その後、父親の転勤はなかった。
「一度転勤してしまうと、数年に一度の割合で、転勤することになるから」
と友達に言われたのだが、その友達も確かに転勤族だったようで、彼が言っていたように、3年も経たないうちに、その友達は別の土地に移っていた。
ただ。この土地にやってきて初めて友達になった相手だったし、転校していったといっても、同一県内だったので、その後も友達関係は続いていた。
中学に入ってから、友達のところに遊びに行ったり、彼がこちらに来てくれたりはしたが、それでも、県内を適度に転勤して回っていたので、近かったり遠かったりで、結局、中学卒業と同時くらいに、どちらからともなく連絡を取ることがなくなって、音信不通ということになってしまったのだった。
K市というところは、日本でも有数の貿易港を有していて、街には外人も多く、いわゆる、
「国際都市」
という様相を呈していた。
街では、洋菓子の店やコーヒーなどの輸入も豊富で、南米であったり、北欧あたりとも貿易が多いのか、外人というと、そのあたりの人が多かった。
洒落た喫茶店が多いのもこの街の特徴で、特に、大学が密集しているところでは、ずっと喫茶店が軒を連ねているといってもいいだろう。
クラシック喫茶のようなレトロなお店もある。
今の時代に、レコードを使っての演奏。しかも、蓄音機の形をしたプレイヤーなど、実に凝った雰囲気を醸し出している店は、いつも客でいっぱいだった。
ソファーも楽に作ってあることもあって、
「コーヒーを飲みながら、そのまま寝てしまう」
というのも、ざらであったのだ。
特にこのあたりは、レトロでモダンな喫茶店が、大正ロマンを感じさせ、前述のレコードというのが、昭和の高度成長時代を感じさせる。
さらに、その奥には、平成の喫茶などと、駅から大学に近づいていく横丁あたりは、その変の、
「まるでタイムトンネル」
を思わせるような佇まいが、本当にお洒落であった。
そんな街並みの中でも、昭和から平成に入るあたりには、
通り魔事件
冬になってから、冬至が近づくと、日の入りが早くなり、あっという間に夜のとばりが下りてしまうのだった。
街の明かりは、乾燥した空気の中で、瞬くかのような様相を呈している。
「冬のこの時期が、一番夜の街がきれいに見えるな」
と思っているのが、会社からの帰宅の途中であった、
「渡会利夫」
であった。
渡会は、高校時代に家族でこの街に引っ越してきてから、そろそろ10年が経とうとしていた。
普通だったら、
「学校の友達と離れるのが嫌だ」
ということで、家族を困らせるものなのだろうが、
「今度お父さん、転勤になって、すまないが、ついてきてくれるか?」
というのが、お父さんの考えだった。
というのも、お父さんからすれば、
「単身赴任などすると、女房に不倫されたり、自分が寂しさから不倫に入ってしまって、もし抜けられなくなったら、どうしよう?」
という考えがあったのだ。
そんなことを女房子供に分かるはずもなかった。
そもそも、父親は、慎重なタイプなくせに、自分に自信が持てないタイプだったので、
「少しでも不安なことがあれば、すぐに流されるタイプだ」
と思っていた。
事実、転勤を言われた時、少しだけ、
「単身赴任」
というものが頭をもたげたが、すぐにその考えを打ち消して、
「いやいや、俺が単身赴任なんかすると、女房が不倫するかも知れない」
と最初に、女房の不倫を考えた。
しかし、単身赴任をした自分も、今度は、
「きっとひどい猜疑心に苛まれるかも知れない」
と感じると、不倫の心配をしてしまった女房に、
「悪いことをしてしまった」
と感じたのだ。
確かに、悪いことをしたということになるのだろうが、今度は、自分がそんな猜疑心を持ったまま、一人でいると、どこかのタイミングで開き直るのか、キレてしまうのか、
「自分の方が不倫に走るのかも知れない」
と感じたのだ。
元々不倫を疑った自分が悪いのだろうが、離れていると、どうしても、猜疑心が強くなる。
しかも、もしそんな時、赴任先で優しく声をかけてくれる女の子がいれば、不倫に走らないと言い切れない。
「いや、俺だったら、コロッと引っかかるかも知れない」
と感じたのだ。
つまり、
「猜疑心というのは、自分の弱い心に忍び寄ってくる」
というもので、その思いは、孤独感を激情させるものではないだろうか?
しかも、一人で悩んでいると、
「俺を悩ませたのは、女房なんだ」
と、
「悪いのは、俺ではなく、女房の方だ」
と思ってしまうと、どうしようもなくなるだろう。
女房との関係は、女房と喧嘩をした時は、
「必ず渡会が謝ることで肩がつく」
ということであった。
だが、
「明らかに渡会は悪くない」
ということになった時、自分からは決して謝らない。
それをいいタイミングで女房が察してくれて、謝ってくるので、事なきを得るのだった。
つまり、お互いに、気を遣っているというよりも、お互いを理解し合っていることが、「うまくいく秘訣だ」
ということであった。
そもそも気を遣う必要もなく、信頼関係は、何よりも強い絆を示しているのだ。
それを思うと、
「相手が謝らない時というのは、自分が悪いんだ」
ということを悟り、それを謝るまでもなく、態度に示せば、うまくいくといえるだろう。
それを、渡会も女房も分かるということから、
「今まで大きな喧嘩もなく、うまくやってきた」
ということであろう。
ただ、渡会には一つ大きな懸念があった。
それが、
「環境が変わったらどうなるというのだろう?」
ということであった。
それが、まさに今回のような転勤の問題であり、
「一緒にいないという決定的な距離の遠さを感じてしまうと、自分でもどうなるか分からない」
と、渡会は思っていた。
「女房も、同じことを考えているに違いない」
とさらに、感じるのだった。
渡会が、このK市にやってきたのは、その時の父親の転勤がきっかけだった。一悶着あったようだが、結局、
「しょうがない。ついていきましょう」
ということで落ち着いたのだ。
ただ、なぜか、その後、父親の転勤はなかった。
「一度転勤してしまうと、数年に一度の割合で、転勤することになるから」
と友達に言われたのだが、その友達も確かに転勤族だったようで、彼が言っていたように、3年も経たないうちに、その友達は別の土地に移っていた。
ただ。この土地にやってきて初めて友達になった相手だったし、転校していったといっても、同一県内だったので、その後も友達関係は続いていた。
中学に入ってから、友達のところに遊びに行ったり、彼がこちらに来てくれたりはしたが、それでも、県内を適度に転勤して回っていたので、近かったり遠かったりで、結局、中学卒業と同時くらいに、どちらからともなく連絡を取ることがなくなって、音信不通ということになってしまったのだった。
K市というところは、日本でも有数の貿易港を有していて、街には外人も多く、いわゆる、
「国際都市」
という様相を呈していた。
街では、洋菓子の店やコーヒーなどの輸入も豊富で、南米であったり、北欧あたりとも貿易が多いのか、外人というと、そのあたりの人が多かった。
洒落た喫茶店が多いのもこの街の特徴で、特に、大学が密集しているところでは、ずっと喫茶店が軒を連ねているといってもいいだろう。
クラシック喫茶のようなレトロなお店もある。
今の時代に、レコードを使っての演奏。しかも、蓄音機の形をしたプレイヤーなど、実に凝った雰囲気を醸し出している店は、いつも客でいっぱいだった。
ソファーも楽に作ってあることもあって、
「コーヒーを飲みながら、そのまま寝てしまう」
というのも、ざらであったのだ。
特にこのあたりは、レトロでモダンな喫茶店が、大正ロマンを感じさせ、前述のレコードというのが、昭和の高度成長時代を感じさせる。
さらに、その奥には、平成の喫茶などと、駅から大学に近づいていく横丁あたりは、その変の、
「まるでタイムトンネル」
を思わせるような佇まいが、本当にお洒落であった。
そんな街並みの中でも、昭和から平成に入るあたりには、
作品名:抑止力のための循環犯罪 作家名:森本晃次