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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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甘党の限界(続・おしゃべりさんのひとり言133)

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そして最後に、もう無理しても二度と食べたくない、強烈な甘味を一つ紹介します。
イスラエル出張中のこと、現地の会社の社員と仲良くなったんですが、彼はユダヤ系ではなく、迫害されているアラブ系の(パレスチナ人)男性のニメル君です。
アメリカからも出張者のジョンが来ていて、彼と僕と部下の嶋君が、ニメル君の実家に招待されたんです。でもその家は、僕らのホテルがあるテルアビブから2時間くらいかかる、ナザレという街の郊外でした。ナザレって言えば、聖母マリアが天使からイエス・キリストを身籠ったと、受胎告知されたとされる洞窟の場所が教会になっている有名な街ですので、観光目的で行くことにしました。
まずその教会を見学して、近くのお店に入りました。その店はニメル君おススメのお菓子を売っている観光客にも人気の超有名店だそうです。日本のケーキ屋というか、おしゃれなチョコレート専門店のような店構えですが、イートインスペースもあり、すごく賑わっていました。
そこで売られていたお菓子は、アラブの定番スイーツの『バクラワ』というものでした。
直径15センチほどの円形で厚みは約2センチ、それを細かくカットして食べます。中身はピスタチオや、ナツメ椰子など、様々な具を入れて焼いた、見た目は堅焼きパイのような感じです。

僕らはまず席を確保して、ニメル君がカウンターに注文に行きました。
そして、5種類ほどのバクラワの皿をトレーに載せて戻って来ました。紙コップも人数分あります。
コーヒーはセルフサービスで飲み放題とのこと。早速サーバーに汲みに行きましたが、そのコーヒーは砂糖入りでした。
そして席に戻って、そのお菓子を4人分に分けてもらったんですが、しっとりと糖蜜が滲んで、いかにも甘そう。
さらにニメル君は、蜂蜜のようにテカテカした粘度高めのシロップがたっぷり入ったポットを持って来ました。そしてそれをそのパイが浸かってしまうほどかけたのです。
僕はそれを一口食べて、身に危険を感じるほどの甘さを体験しました。
これは大げさに言っているんじゃなくて、喉が焼けるような甘さって言えば、どれくらい理解してもらえるでしょうか。
中身の具に違いがあるので、それぞれ味を確かめながら食べましたけど、はっきり言って、どれも体が震えるほどの激烈な甘さです。
砂糖のシロップではこんな甘さは出せないと思います。一体原材料は何なのか全く判りません。
嶋君は一口ずつ食べて残すという選択をしましたが、彼はまだ若く、ビジネスというものが解っていないのです。
実はニメル君は、私たちのお客様の会社の社員です。折角もてなしてくれているのに、むげに食べ残すなんて出来ようはずもありません。ジョンも同じ認識で、嶋君に頑張って食べろと助言していましたが、若い彼はすぐに「Give up」などと言っています。
それで僕とジョンは、無理して食べるしかなくなりました。残念なことに甘いコーヒーしかないのですが、それでも微かな苦みが救いです。
美味しいものを食べると、ほっぺが落ちるとか表現しますよね。でもこれ程にまで甘いものを食べると、目の下から全ての肉が落ちてしまいそうな、痙攣にも似た感覚を経験しました。
そして何とかノルマを果たして、吐き気や胸焼けとは違う後遺症に悩まされながら、その店を後にし、ニメル君の実家に向かいました。
その家はそこからまだ少し東に行った先の、ヨルダンとシリア国境に近い非武装地帯の村でした。2回の検問では、マシンガンを持つ兵士にパスポートを見せましたが、地元民のニメル君のおかげで、すんなり通過出来たものの、僕らのその緊張感は隠せません。
現在の情勢なら危険過ぎて近寄れませんが、十数年前はまだその地域は平穏だったのです。

彼の実家は小さな湖を見下ろせる丘の斜面の村にありました。敷地内には自家用車が数台停めてあり、オリーブやブドウの木が植えてあって、そこそこ裕福なパレスチナ人のようでした。
お父様は大きな鷲鼻で頭にターバンのような白い布を巻いた典型的なアラブ人です。
お母様は男性客には姿を見せません。敬虔なイスラム教徒のようです。
ジョンはお父様に握手を求めて挨拶しましたが、僕は腕組みをして挨拶しました。これは偉そうにしたのではなく、アラブの文化で(あなたに手も足も出しません)という意思表示です。
僕は大学の時、卒業論文でアラブ事情について研究したことがあったので、その知識が役に立ちます。
ちなみにお父様の名前はクタバさんですが、ニメル君の名前はニメル・クタバです。
クタバがファミリーネーム(苗字)のように感じますが、実はそうではなく、クタバさんの息子ニメルという意味です。
西洋の名前だとファーストネーム(個人名)の後にファミリーネームが来るので、こんな勘違いしがちですが、基本的にアラブ系には苗字に該当するものを持っていない家系も多いのです。その場合、西洋風に父親の名前をつなげて名乗ることになるそうです。
昔よくテレビニュースで名前が流れていたイラクのフセイン元大統領の名前を憶えていますか?
彼はサダム・フセインと呼ばれていました。でもフセインは父親の名前でした。本当はサダム大統領だったのです。そのことを知らないCNNのニュース製作者がフセイン大統領と呼んでいたので、西洋ではお父さんの名前が大統領みたいに呼ばれてしまっていたと言う訳ですね。
テレビニュースで流れる映像に、イラクの大統領信奉者は皆「サダ~ム! サダ~ム!」と叫んでいたのを覚えています。
余談が過ぎましたが、違う文化圏では、何事も注意して行動しないと、何が失礼に当たるか判断できません。