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田 ゆう(松本久司)
田 ゆう(松本久司)
novelistID. 51015
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いちじく賛歌

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9) これまで14年間米作りをやってきたが、やめるきっかけになったひとつの理由が米作りの徹底したマニュアル化であった。とくにライスセンターに乾燥・籾摺りを依頼する場合は、たとえ米をJAに出荷しなくてもトレーサビリティによる栽培管理の規格化がきびしく要求され米作りの工夫を激減させる結果となっている。
もちろん安全で安心な米を消費者に届けることは疑いもなく重要なことではあるが、栽培管理の規格化がそれを担保する唯一の方法とも思われない。合鴨農法や不耕起栽培など、より環境に優しい米作りがあってもそれらが排除される形で生産管理の均一化が押し進められている。みんなが一斉に同じことをやらねばならない没個性の生産管理が面白くなかったのである。
しかし今日、田んぼの草を一度も引かずに最後まで放置している水田を見かけることが多くなった。田植えも稲刈りも他人任せの農家はその間の栽培管理すらも行わない行為をどのように説明するつもりなのか。先祖から受け継いだ田んぼを荒らさないために米作りをしているとは、とても言えるはずがない状況が農家個別所得補償の名の下で行われているとしたら言語道断である。

一方、いちじく栽培についてはそれなりの基本的な栽培管理は存在するが米作に比べて自由度は大きい。岐阜県作成のいちじく栽培の手引き書を見ても他県のやり方とは異なるところが多いし県内の栽培農家にあっても実際にそのように栽培管理されているとは限らない。今回視察させて頂いた美濃市のいちじく園は実に個性的で多くの点で頭に描いていた樹園地の構成や栽培管理とは異なるものであった。実に独創的で自由に管理されている点からしてもいちじくの特性をよく把握されているものと思われる。例えばテッポウムシによって主枝が枯れても、また新しい枝が成長してくるので農薬駆除をされていないという事実は、いわゆるマニュアルから反れることではあるが大して気にも留めておられない様子などは自由な栽培管理を選択する者にとっては大いに参考になるケースだと言える。

10) 今年の3月下旬にいちじくの苗木を植栽して6ヶ月が過ぎようとしている。30本の苗木を植えた場所には生育進度に差異があるものの欠株が1本もないのが救いである。なかなか芽が出なかった時のあせり、芽が出始めた時の喜び、先行の13本に遅れること1ヶ月、諦めかけていた矢先にやっと芽らしきものが出てきた時の安堵、そして最後まで芽が出なかった時の無念さなど、わずか半年間にさまざまな経験をさせてもらったような気がする。
現段階でツィンテイル仕立が出来ていないのは1本だけで再度の枯死を経て夏の盛りにもかかわらず自家製の苗木を植え替えたもので一時期風前の灯火のごとく枯死寸前までいったが何とか生き延びている木である。あとは全て2本の主枝を両側に伸して2本の支柱で支えているが、2本の主枝の取り出し位置はバラバラで高低差があったり地中から出るように伸びているものもある。これは土中に埋まった苗木の箇所が枯死をまぬがれて生き残っていたのでそこから芽が出たのであろうか、地表部の苗木からは芽が出なかったのである。
かつて仕事の関係で地域農業生産計画の策定に伴い個々の農家の営農計画を立てたこともあったが今回は経営収支など念頭になかったので営農計画は立てていない。なぜ30本植栽したのかと問われれば水田転作で果樹を植える以上ある程度の作付け規模を確保したかったことといちじくの作付け形態や面積から割り出した数量でもある。
しかし果実をすべて自家消費することができないことは初めから分かっていたので販売にあてるにはどうすればいいかということも一応は念頭にあったし、設備投資にもそれなりの金額を積んできたので経営収支などどうでもいいとはさすがに言い切れず、取らぬ狸の皮算用にならぬように収穫できる2年目から販売できる体制を考えなければ続けていくことが難しくなるだろうと思っている。