認知症に遠い心の持ち方
その3
ひとから聞く所によると、叔母はお客さんの髪をいじりながらおしゃべりするので動作がのろかったらしい。それでも知り合いがはるばる来てくれて店はどうにか巧く行っていたようだ。
私が高校へ通う三年間は店も順調で叔母の旦那も元気でよく釣りに行き、釣った魚でさつま汁を作ってくれた。
私は高校を卒業直後に病気になり三か月ほど美容院の二階に寝て暮らした。昼間は叔母の旦那が御飯を作ってくれていた。
母も仕事の昼休みに美容院に来て私と一緒にご飯を食べ、様子をみてから仕事に戻るという三か月だった。
母や叔母と叔母の旦那がしてくれることを何の感謝もなく、自分の身体の調子の悪かったことしか覚えていないが、ただ寝ているときに遠くの方から聞こえてくる「南国土佐を後にして」というメロディ―のことは頭に残っていて、今でもその歌を聴くとあの頃の辛い思春期の心情を思い出す。
作品名:認知症に遠い心の持ち方 作家名:笹峰霧子