認知症に遠い心の持ち方
おしゃべりが趣味という人 その1
面白い趣味もあるもので、近所に住んでいた老女はいつも「私はおしゃべりが趣味なの」と言っていた。二年前に県外の親族の家に身を寄せたが、電話で話すときでさえそのように言う。おしゃべりすることを趣味だと人に堂々と話すというのも奇妙なことだと、私は思っている。
まあ、今の所その御仁は呆けもせず暮らしているようだから、その線を貫いて最後までいけば良い。だが都会の見知らぬ土地ではなかなかおしゃべりをする相手が見つからないので、元居た古巣の知り合い数人に電話をかけ回っているようだ。相手は五、六人いるようで、掛けたいときに留守とかで、「つまらんから掛けた」と私に掛けてくる時がある。
御仁は噂好きなので、こちらに居たときと同様一言しゃべればその日の内にそれらの人に伝わる。今も多分それらの人を牛耳っていると思える。まあ、頭はしっかりしているようなので好きなようにやれば良い。
作品名:認知症に遠い心の持ち方 作家名:笹峰霧子