認知症に遠い心の持ち方
その6
私が大学を卒業してまもなく夫が婿として入り、私は英語教室を始めた。
二人目の子供が生まれたときに叔母が面倒をみると言って保育園を退職した。叔母は付き切りで子供の世話をしたので、次女は叔母のことを懐かしく覚えているようだ。
子供が中学生になる頃から叔母は少しずつ頭が可笑しくなり始めていた。
おしゃべりが好きな人なので、近所を訪ね歩き、亦遠い街中まで歩いて人を訪ねていたらしい。近所の煙草屋の奧さんが、徘徊する叔母が危ないので気を付けて欲しいとドライバーが言ってきたと伝えてくれた。
ボケの症状は益々悪化していった。
私の家の冷蔵庫を開けて生肉を食べたり、田植え前の田圃の中に落ちていたり、裏山へつづく草道の溝に落ちて手を振っていたのを見つけたこともある。
何方の場合も見つけなかったら死んでいたはずだった。
作品名:認知症に遠い心の持ち方 作家名:笹峰霧子