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辻褄合わせ

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 と思っているわけではなく、女の子が、女の子らしい恰好をしているのが、格好よく見えて、凛々しく感じているようだった。
 最初のように、
「女の子になりたい」
 と考えているのだとすると、絶対にしない恰好をしてくるということに気づいたことで、自分が勘違いをしていることが分かった。
「じゃあ、まわりの皆は、どう考えているんだろうか?」
 と考えた。
「自分と同じように、彼の本心が分かってのことだろうか?」
 と感じたが、明らかに違っているようだ。
 そう思って見ていると、まわりは、明らかに、興味本位でしか見てないと思うと、その女装をしたいといっている友達が可愛そうに感じられたのだ。
「耽美主義」
 という言葉があるが、明らかに、女装は、
「美を追い求めるためのもの」
 ということであり、
「美至上主義」
 の考えからだということに違いない。
 そう思うからこそ、今度は彼を擁護したくなってきたのだ。
 マサツネは、また彼との仲を復活させた。
 元々、彼がカミングアウトさえしなければ、普通に、
「ただの友達」
 だったのだ。
 別に親友というわけでもなく、ただ、
「いつも一緒にいるだけ」
 という感じではあったが、楽しかったと思える時期もあったのだ。
 だが、カミングアウトをした時は、
「ああ、こんなやつだったんだ」
 と、外見だけを見て、簡単に判断してしまった。
 これは、マサツネだけではなく、まわりの皆も同じことだったに違いない。
 ただ、もう少し仲が良かったら、結果的には切っていたように思うが、それまでに自分の中で葛藤があったことだろう。
「簡単に仲を切ってしまってもいいのだろうか?」
 ということであり、それは、今から考えても、
「余計な感情」
 だったに違いない。
 深い仲であればあるほど、結果的に切ってしまうのであれば、そのために要した労力というものは、無駄でしかないと思うからだろう。
 そんなことを考えると、マサツネは、
「あいつとは、深い仲でなくてよかった」
 と思った。
 それどころか、正直、親友と呼べるほどの友達でなければ、
「深い仲になる必要なんかないんだ」
 と思うことになるだろう。
 実際、深い仲になるということは、別れなければいけなくなった時のリスクを考えていないということになり、それこそ、そうなった時は、
「後のまつり」
 でしかないのだ。
 だが、その友達が次第に皆から、ハブられていくというのを目の当たりにして、どこか曖昧な気分になっていた。
「一人くらい、残ってやってもいいんじゃないか?」
 と、早々に見切りをつけた自分のことを棚に上げて、そんなことを感じるのだから、
「人間なんて、いい加減なものだ」
 と感じるのであった。
 世の中というのは、意外と、
「いい加減なことと、理不尽なことで成り立っているんじゃないか?」
 と言われるようになった。
 というのも、確かに、それ以外のこともたくさんあるのだが、突き詰めていくと、辿り着くのは、どちらかではないかと思うのだった。
 たとえば、言い訳であったり、理屈をつけて説明するのも、前者は、
「理不尽なことを何とか相手にわかってもらおうとしていること」
 であり、後者は、
「いい加減なことを、いい加減ではないと思わせようとして、却って、相手に考えを押し付けようとするから、聞いていて、耳障りにしか感じない」
 ということなのではないかと思うのだ。
 だから、友達が、女装してきた時も、最初は、
「気持ち悪い」
 という直感だけでそう感じたが、そのうちに、
「何かの言い訳のつもりではないか?」
 と思い、さらに、
「理不尽な何かを感じるのか?」
 と考えた時に、どちらでもないと思ったから、相手をブロックする形で、仲を切ったのだった。
 だから、自分の中では、
「一応、これでも考えたんだ」
 と言いたかったのだが、分かってくれたのかどうなのか。どちらかというと、
「それどころではなく、眼中になかったのだろう」
 と思えたのだ。
 本人からすれば、何を思っての女装なのか分からなったので、まわりがどんどん去っていくことを、予想できておらず、そのことでパニックになっているのではないかと、勝手に思い込んでいたのだった。
 しかし、だからと言って、何とかしてやろうという気は起らなかった。
 もうその時には、
「彼に関わるのは、時間のムダだ」
 と、思っていたからだった。
 さすがに、最初から、
「時間のムダだ」
 と思ったわけではない。
 あくまでも、適度な距離を保っているから、気になるのであって、少しでも近づくと、火傷してしまいそうな気がするし、これ以上離れると、彼のことを気にするというエリアから離脱してしまうのではないかと感じるのだった。
 だから、本当は、もっと離れたいのに、なぜか金縛りにあったかのように、離れることができない。
「ここで、離れてしまうと、二度とこの距離に戻ってくることはできない」
 ということが分かっていて、それでも離れたいと思っているにも関わらず、どうすることも、自分の意識ではできなかったのだ。
「俺は一体、どこにいるんだ?」
 と感じた。
 その場所というのは、まるで、山登りに出かけた時に、途中にあった吊り橋を思わせるものだった。
「そのつり橋を渡らないと、先には進めない」
 ということで、渡り始めるのだが、中間部分に差し掛かると、それまで感じなかった揺れが、一気に襲ってきた。
「グラグラしていて、一時でも手を放してしまうと、そのまま、奈落の底に真っ逆さまになって落ちていくだけだ」
 と思うと、とたんに、そこまで来てしまったことを後悔する。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
 と考えるが、とりあえずまっすぐに進むしかないので、まずは、前を見つめた。
「まだまだ距離があるじゃないか?」
 と思い、よせばいいのに、後ろを振り向いてしまったのだ。
 すると、そこには、前に見た光景とまったく同じものが広がっているではないか。その光景は、寸分食らわないもので、果たして、その光景は、今まで自分が目指していた先の光景なのか、振り向いた時に見えた、今、橋に差し掛かった時に、通ってきた入り口だったのかが分からなくなったのだ。
 そうなると、もう、どちらにも進めなくなる。少なくとも、自分が今錯覚を見ていることには間違いない。
 どちらも同じ光景などということはありえないからだ。
 そう思うと、どちらかが本当で、どちらかがウソになるということになってしまう。ウソの方にいくと、急に橋がなくなってしまい、そのまま奈落の底に落ち込んでしまうと考えてしまうのだった。
 だからと言って、その場にとどまることは許されない。
 あとどれだけいられるのかは分からないが、早くしないと、足元も消えてしまうかのように感じたのだ。
 結局、どちらにもいけず、
「あっ」
 と思った瞬間に、足元がなくなり、奈落の底に落ちていくのだった。
 その落ちていく瞬間、自分で分かったのだ。
「どちらかが、間違っているという考えが違っていて、本当はどっちも間違いなのではないか? つまり、どちらに進んでも、今のように奈落に落ちるしかなかったということだろう」
作品名:辻褄合わせ 作家名:森本晃次