辻褄合わせ
と言われる秘訣は、
「ドッペルゲンガーを見ると、近い将来、必ず死を迎える」
ということであった。
特に著名人などに、よくあったらしく、逸話がいくつも残っている。
アメリカ元大統領のリンカーンなどは、暗殺されたその日に限って、
「私を暗殺しようとしているというようなウワサが流れていないか?」
ということを、諜報部の人間にしきりに聞いていたという。
これは明らかに、
「自分が殺される」
という自覚があり、その自覚に対しての信憑性がかなりの確率で高かったということを示しているのだ。
さらに、もう一人の著名人として、具体的にリアルな話が残っているのは、明治の文豪である、
「芥川龍之介」
であった。
彼は自殺であったが、自殺の前の日に、編集者の担当の人間がいつものように龍之介を訪ねたのだが、その時の様子がおかしかったという。
というのも、編集者がやってきた時のことである。
龍之介は席を外していたようで、その時に、ちょうど、原稿が机の上に置かれていたという。
その原稿を手に取って見ようとした編集者に対して、戻ってきた龍之介が、血相変えて、
「これは失敗作だ。見るんじゃない」
とばかりに、その原稿をバラバラにして、破いたのだという。
その時の激昂は、今までに見たこともなかった龍之介だったというのだが、結果、翌日、自殺をしたというではないか。
しかも、机の上には、ちゃんと原稿ができていたという。
さらに、その原稿が、前日、本人が引き裂いたものと同じだったことから、編集者はゾクッとしたという。
「小説というものは、一点ものなので、どんなに同じ作者であっても、まったく同じものを作ることは不可能なのだ」
ということである。
しかも、時代的に、コピーもパソコンもプリンターなども、存在していない時代なのである。
さらに不思議なことは、原稿そのものではなく、
「編集者の人間が、前の日に龍之介が書いたものだ」
とハッキリ断言できるところだった。
いくら文章を読むのが慣れているといっても、ちょっと見ただけで、原稿すべて、一語一句、間違いなく覚えているのかどうか。怪しいものである。
何よりも本人が、
「覚えているなんて、ありえない」
と思うであろう。
それを思うと、
「ドッペルゲンガーだと言い切れる自信がどこから来るのか?」
ということである。
そもそも、編集者が言っていることは、
「昨日の激昂していた、先生は、まるで別人のようだった」
といっていることで、他の人がみれば見分けがつかないが、怒りの表情など、感情が入ってしまうと分かるという、
ただ、そう考えると、その時の龍之介は、冷静でほとんど何もしゃべられないのが、ドッペルゲンガーだというのであれば、
「あれが誰だったのかということに対して。説明がつかないだろう」
ということであった。
ネットで知り合った人
ドッペルゲンガーではないのだろうが、最近になってネットで、知り合った人がいた。最初は確かゲームだったのだろう。相手はまだ少年だということで、本人曰く、
「15歳です」
ということだった。
まだ、会ったこともないどころか、顔も見たことはない。やっと最近、音声での通話ができるようになったくらいだった。
マサツネとすれば、
「別にパソコンなんだから、画像チャットのようなものをしてもいい」
と思っていた。
最近は、スマホでもパソコンでも、ビデオ会話が普通にできるようになっているのだから、いくらでもできるというものなのだろうが、
「音声までは構わないのですが、画像を晒すのは、ちょっと」
といって、その人は、頑なに、画像が晒されることに抵抗があったようだ。
だからと言って、彼の音声がごまかされているという感覚はない。確かにボイスチェンジャーを使えばいくらでも音声を変えることはできるだろうが、それはわざとそうしないのか、それとも、犯罪防止の観点があるのか、ボイスチェンジャーというものを使えば、
「これはボイスチェンジャーの声だ」
ということが、すぐに相手に分かるようになるのだ。
つまり、声をごまかそうとはできないということである。
だから、彼の声を聴く限りでは、確かに、まだ、
「未成年の少年以外の何者でもない」
ということに変わりはないだろう。
ボイスチェンジャーくらい、本当に作ろうと思えば簡単にできるだろうに、それをしないということは、本当に何かの事件が起こって、それを何ともできないからなのではないだろうか?
二人は、お互いに、
「会いたいね」
とも言っている。
ただ、簡単に逢える距離でもなかった。
マサツネは、仕事上、休みの日でも、遠くに遠征ができるような仕事をしているわけではなかった。
「いつ、トラブルがあったら呼び戻されかねない」
という仕事なので、普通の休みくらいでは、遠征もできないのだ。
「では、夏の休暇や、正月休みなどはどうなのか?」
ということになると、余計にどこかに行けるわけではない。
会社は休みなのだが、何かのトラブルが発生すれば、自分がトラブル対応の陣頭指揮をとらなければいけない。
下手をすれば、クライアントに謝罪に行かなければいけなくなった時、その長にいるのが、マサツネの役目であった。
本来なら、格好のいい仕事なのだろうが、裏を返せば、トラブル対応の中心に首を据えられているだけで、
「貧乏くじを引いた」
といっても過言ではない。
そう思うと、
「誰かと会うために、ちょいと旅行」
というわけにもいかない。
正月といっても、酒を浴びるほど飲んで、前後不覚に陥ってはいけない立場で、本当に、
「貧乏くじ」
という言葉が一番当て嵌まるのだが、彼の性格から、苦笑いもできない。
下手に苦笑いをすれば、自分から、この立場を容認していることになるので、そんな、
「まんざらでもない」
などという表情をすることは、許されないのだった。
それが、マサツネにとっては、辛いことであった。
「自分の気持ちを顔に出せないのが、こんなにつらいなんて」
と、分かってはいるけど、性格なので仕方のないことだった。
その人は名前を、アツシと言った。
ちなみに、マサツネというのは、この時に、ハンドルネームとして使ったもので、もちろん、本名ではない。ここで、アツシの名前を使うことで、最初から、主人公の名前を、
「マサツネ」
にしておいた方がいいという考えで使ってしまったことを、この場を借りて、お話しておくことにしよう。
アツシ君は、最初の頃こそ、
「可愛らしい少年」
という感じで、話題もそんなに出すことはなかった。
出したとしても、学校においてのクラスメイトの話題くらいで、いかにも、
「中学生の少年」
というイメージを払拭できないでいた。
だが、次第に慣れてきたのか、自分が話題を出さないと、そろそろまずいとでも思ったのか、最近、自分の話題を出すようになってきた。
その話題というのが、時間に関しての話が多く、さすがのマサツネも、さすがに、
「ん?」
と思うことも少なくなかった。