小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ショートショート まとめ

INDEX|39ページ/53ページ|

次のページ前のページ
 

抵抗



俺は震える足をなだめながら前に進んだ。
槍を持つ手が汗ですべりそうだった。“これでは思うように戦えない”そう思って手に砂をつけようとしゃがみ込んだ。その時、後ろを進んでいた兵が喉に矢を受けて倒れた。
 恐怖心が俺を襲った。俺はただ真っ直ぐに走った。走ることと槍でつくことだけが自分の存在を示すものだ。それは矢に当たりにくくした。そして、気がつくと目の前に敵軍の騎馬武者がいた。しかし、流れ矢を受けた馬が前足をおりたたむように崩れ、武者が転がり落ちた。俺は怖さを槍に込めてその武者を突き刺した。

【俺は見えない天の力に護られられているのではないか】そう思って天の力に感謝した。

【あまりにうまく行き過ぎるのでないか】 ここ数年で戦いに勝つごとにその思いは大きくなって行った。俺は槍一本で手柄をたて続け、今は騎馬にのり、先鋒隊の隊長にまでなっている。目の前を見渡すと、揺れるすすきの間に最後の決戦を決めた敵軍の旗印が見える。その向こうには今出たばかりの朝日を浴びて河面がきらきら輝いて見えた。

 「背水の陣か」と俺はつぶやきながら振り返り、戦闘準備をしている自軍を見た。ゆうに敵軍の2倍はあるだろう。士気も十分だった。ただ一人、自分だけが士気があがらない。
 頼りなく揺れる敵軍の旗印を見ているうちに【俺は護られているのではなく、見えない力に操られているのではないだろうか】その思いは、今最高潮に達した。

……俺は、俺は……自分の道を行く……
 俺は頭の中が赤く燃え上がるような感覚を覚えた。自軍を振り返り、腕を上げ大きな声で叫んだ。
「行くぞっ」
 ウオーっという声に包まれながら、俺は坂を下り、すすきの野に入って行った。適の旗印が動き始めた。俺はそれを左に見ながら、どんどん河に向かって進む。すすきの間から金色に輝く河面が次第にその輝きを大きくして行く。
 背後で少しのざわめきが聞こえる。俺は速度を緩めずに、戸惑いを見せた馬を叩きながら、河に向かって飛び込んで行った。

 前代未聞の対局であった。タイトルのかかった大一番。優勢のまま終盤を迎え、勝負を決めようと打った成金は勢い余って自分の駒をはじき飛ばし、さらに盤外に落ちた。

end