ショートショート まとめ
私は心に少しの寒さと、どこからか今までに無い力が湧いてきているような気分で目が覚めた。
「どうだ、凄いだろう」と言いながらSが自分を見ている。
私は「ああ」と曖昧に頷きながら自分の心の整理をした。そして、勢いよく起き上がると自分の頭に手をやった。変わってはいなかった。Sの言う通り禿げることは無かったが、微妙に自分の頭と少し違っている気がしたが、それは意識が変わったのだなと漠然と思った。
私は、「じゃあな」と言って部屋を出て外に向かった。Sが「おい、待てよ。どうしたんだ。感想をもう少し……」という声を後ろから聞きながら急いで家に帰った。
散らかった部屋を片付けながら、少し充実感のようなものを感じた。そして、次の日からグータラ社員で有名だった評価があっという間に変わった。一生懸命仕事をして多くない給料を貰うことに有難い思いを抱くようになった。
いつしか私は、役職がどんどん上がって行き、お金もどんどん入ってくるようになった。
目の前にある預金通帳を、うつろな感じで眺めながら、私は窓の外に視線を移した。葉の少なくなった並木が見えた。そして心の中を冷たい風が通り抜けていく感じがした。
(了)
作品名:ショートショート まとめ 作家名:伊達梁川