ショートショート まとめ
ポイントカード
高速道を走っている俺の車をパトカーがサイレンをならして追い越していった。俺は身体が緊張していくのを感じていた。
やがて前方に赤い点滅が見えた。事故らしい。警官が誘導を始めているそばに事故車が見えた。どうやらセンターラインを越えて対向車にぶつかったらしい。
俺は事故が起きた現場をつい見てしまう。それもじっくり見てしまう。普段ぼーっとしている気持ちが、事故現場を見ると少し昂揚した気分になってくる。自分はお酒が飲めないのだが、お酒を飲んで騒いでいる人はこんな気持ちなのかなとも思う。
今日も後続の車が見当たらないので、少し停車して見てしまった。警官がちらっとこちらを見て何かを言おうとしたので発車した。
憐憫と快感と罪悪感の混じった気持ちのまま、俺は車を走らせた。
少し行くと、サービスエリアがあったので、少し休もうと思い、車を止めた。
ドアを開けようとした時、車の横に人が立っているのに気付いた。全身黒づくめの男がカードを差し出しながら、
「ポイントカードをつくりませんか。無料でございます。満点になるといい事があります。」
と言った。
俺は「何、それ、どこの店?」と聞いた。
「このカードはYカードと申しまして、車を運転中の態度と人物を私どもが調査いたしまして、選ばれた者だけが手にする事が出来るカードでございます。あなた様が選ばれましたので、やって参りました。」
男は、ダイレクトメールのようなことを言いながらさらにカードを近づけた。
俺は、無料なのと選ばれた者というところが気に入って、それを受け取った。そのカードも又、男と一緒で真っ黒だった。
Yカードとだけ書かれた表面。俺は裏を見た。左上にスペードのマークが緑色に浮かんで見えた。
「1ポイントだけついております。後はあなた様の日頃の運転態度や行動によって、ポイントがつきます。私に調査報告が来たら、即座に参上いたします」
男が説明を続けている。俺は男の説明を聞き流しながら、まあ邪魔にもならないし、持っていようか。と思い、「それで満点になると、何が貰えるの?」と聞いた。
「それは、お楽しみというところで。大変いい事がおこるとだけ言えます」
俺は男が言うことを聞きながら、まあその時になれば解るだろうと思い、
「じゃあ、これ貰っておくよ」と言った。
男は、「あ、ちょっと待って下さい。ちょっと指を出して頂いて、そのカードの裏側右下」と言った。
作品名:ショートショート まとめ 作家名:伊達梁川