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飛び降りの心境

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 というのが、一番の定番であろう。
 その中で一番オカルトチックな話を聴いたのを思い出したのだが、その話というのが、まるで、
「学校の七不思議」
 を思わせる話だった。
 その人の話し方に特徴があったのか、雰囲気の作り方がうまいのか、恐怖はかなりのものだった。
「あれは、5年前のことだったんだよ」
 と、その先輩が話し始めた。
 その時、その話を聴いていたのは、全部で5人くらいだっただろうか? 輪の中心に話してがいて、その人を円周の頂点にするような形で、皆が輪になって、話を聴いていた。
「うちの部ではなく、他の部の人だったんだが、その人は、元々、気が弱いくせに、どこか気が短いところがあり、まわりから、あの人はなかなか性格が掴めないと言われていたんですよ」
 と言い出した。
 そういう人は得てして、
「一つの部署に一人くらいはいるのではないか?」
 とあさみは感じたが、実際に、どれくらいの人がいるかということは未知数であった。
 今、あさみのいる部署にも一人はいた。だが、一見、矛盾しているような性格に感じるが、実際はそうでもない。
「気が弱いくせに、気が短い」
 というのは、基本的な性格としては、気が弱いのだ。
 気が弱いから、まわりが気になる。まわりが気になるということは、自分がまわりにどう思われているかということばかりを気にしてしまう。
 だから、
「かまってちゃん」
 と呼ばれるような人が出てくるわけで、そのために、
「自分を誰も気にしていない」
 と思うと、今度は、
「わざと無視している」
 と思うようになり、明らかな自分に対しての嫌がらせであったり、皆が共謀して、無視しているかのように思うと、自分だけが仲間外れにされているように思うと、どんどん苛立ってくるというものだ。
 だから、気が短いように見られるのだ。
 そう考えると、
「気が弱い」
 ということを要因として、自分がまわりにどのように見られているかということを考えた時、イライラして、
「気が短くなる」
 というものである。
 そんなことを考えているうちに、話が進んでいた。
「会社で、一つのプロジェクトが立ち上がった時、各部署から2人ずつくらい、専従員ということで、参加することになったんだ。だから、専従員として入るわけだから、自部署の仕事はしなくてもいい。他の人に振ることで、プロジェクト一本ということになるわけだが、その人は、そのあたりが不器用だったんだろうな? 自分の仕事は一人でコツコツとこなすタイプなので、人に引き継ぐということがうまくできなかった。天才肌といえばいいのか、仕事をするうえで、資料にまったくまとめていなかったんだな。自分が引き継いできた時、落書きのようなノートは作っていたが、もう慣れてくると、それを確認せずにできるということで、ずっと引き出しにしまい込んでいた。やつは、自分の字が汚いことを自覚はしていたが、自分が慣れてしまったことで、その資料を書き直すということはしなかったんだよ。だから、引継ぎと言われて、その資料を見た時、自分でも字が読めなかったり、ノートを参考にせずに、引き継ぎ書をつくろうとしても、うまくいかない。だから、彼は引継ぎができず、プロジェクトに参加が遅れてしまった。部内では、それまでそつなくこなしていた彼が、意外と整理できないタイプだということがバレてしまい、そおことがプロジェクトに大きく影響し、彼はプロジェクトから外されてしまった。それが彼にとってのトラウマになったのだろうが、彼が自殺をしたのは、それから、3カ月後のことだったんだが、ちょうど遺書があって、そこに、理由が書かれていたのだが、どうも3カ月、かなり悩んだということなんだよ。彼は結果、屋上から飛び降りて、即死ではなかったので、救急車で病院に運ばれたが、結果、翌日、亡くなったということだったんだよ」
 という話だった。
「なるほど、よくある話と言えばそれまでだけど、よくそれで自殺をしようと思ったものですね」
 と聞くと、
「やっぱり、自分のことを分かっていなかったんだろうな。実は話はこれだけではなく、続きがあるんだ」
 という。
「続き?」
 と誰かが聞くと、
「ああ、続きといっても、後になって分かったことなんだけどな。それから、半年もしないうちに、もう一人、この屋上から飛び降りたやつがいたんだよ。そいつは、例のプロジェクトメンバーの一人で、総務部から選出されたやつで、話によると、メインは営業だったり、製作部だったりして、総務ぼというと、まあいわゆるお飾りのようなものに近かったらしいんだ」
 という。
「お飾りというのは、辛いですね」
 と、誰かが茶化すと、
「ああ、そうなんだ。元々、営業部と製作部というのは、会社でも花形。それだけに、あまり仲もよくない。仕事をしていくうえで、いがみ合うのは分かり切っていたのだが、総務部は、ある意味その板挟みにあってしまって、その人は、責任感の強い人だったこともあって、悩んでいたようなんだよね?」
 というではないか。
「考え込むタイプの人はきついですよね。往々にして、管理部的なところにはそういう人が集まるのかも知れない。そういう意味では、宿命のようなものなのかも知れないと思うんですよ」
 というと、
「そうかも知れないな。会社の中でも、半分浮いているという話もあったんだよ」
「その人がですか?」
「ああ、そうだ。ある意味、そういう浮いた存在だったことから、総務部としては、プロジェクトができたことをいいことに、厄介払いができたと思っていたのかも知れないですね」
 というのを聞くと、
「ああ、なんて、会社というのは、魑魅魍魎が渦巻くところなんだ?」
 と、あさみは思った。
 思いはしたが、口に出すだけの勇気? いや、勇気というよりも、口に出すことがどこか、
「タブーのような気がした」
 と言った方がいいだろう。
 それを思うと、
「プロジェクトなどができて、他部署との合同はなるべく辞めたいな」
 とその時は思ったにも、関わらず、将来、自分がまさか他の部署と一緒になったプロジェクトに参加するなどとは思わなかった。
 しかも、やる気に満ちているのだ。
 引き受けた時、
「この時の話を本当に忘れていたのではないか?」
 と、思う程だったのだ。
 その時の話を引き続き思い出していた。
「そもそも、今も昔も、営業部と、製作部は、仲が悪い。要するに火に油のような感じと言ってもいい。自分たちが会社を支えているという意識が強くあるので、決して自分たちが出した意見を譲ろうとしない。特に自尊心も強く、相手をライバル視して意識している相手だということになると、一歩たりとも譲歩は許されないと思うことだろうね」
 というのだった。

                 大団円

 その時、あさみは、ふっとまわりの雰囲気がおかしいと感じて、まわりを見渡したが、その時は、ゾクッとしたものを感じただけで、すぐに意識を戻した。
 それは、
「誰かがその場所にいたのではないか?」
 と思ったからだったが、それはなかったのだ。
 気を取り直して意識を戻すと、話は進んでおらず、
「まるで私を待っていてくれたんじゃないか?」
作品名:飛び降りの心境 作家名:森本晃次