タバコと毒と記憶喪失
「父親は、きっと悪の秘密結社から、相手を殺すか、あるいは、殺傷しなくても、記憶喪失にできるような薬を、タバコに仕込めるような開発をさせられていたのかも知れない。それも、見た目は分からないくらいのものであるが、その効力は明確に違っていて、見る人が見れば、その違いに気づくというものだろう」
と感じた。
そして、
「昔の特撮が、宇宙怪獣を宇宙に返すことで膠着状態を打破するというように、今回は、記憶喪失になる薬、いや毒が身体に回っても、その時に、タバコ、毒、記憶喪失というキーワードを、与えられるように息子に洗脳していたのかも知れない。その薬に洗脳されやすい効果があるのか、そして、しかも、記憶喪失になった人間の口から記憶喪失と言わせることで、相手に違和感を与えるというものだ」
と考えた。
「しかし、記憶喪失になった状態、つまり、世間に放り出された状態でこの言葉を言わないと意味がない。下手をすると、それを組織に知られてしまうと、消されるかも知れない。ただ、今の医学で、この毒を解明すること。そして、解毒の力は、今の世の中にあるわけはないと博士も分かっていることで、安心していた。つまり、博士は自分だけで解毒剤を持っているということだろう。組織が博士によって研究が完成すれば、博士も消されることだろう。それは自分でも分かっている。だとすると、息子の解毒をどうにかしてしようと思うだろう。そのうちに、彼に対して医者を通してリアクションがあるかも知れない」
とも考えていた。
組織はしばらくして捕まった。一網打尽だった。博士を亡き者にしようとしたところを、警察の内偵も進んでいて、一気呵成だった。彼らには、有頂天になっている状況だったので、
「俺たちの行く手を阻むものはいない」
とまで自惚れていたようだ。
そんな組織の解体などあっという間のことだった。
もちろん、科学者親子の力が働いているのは当然のことで、世の中に平和が訪れたのだった。
しかし、それからしばらくして、
「謎の記憶喪失」
というものが流行り出した。
その頃には、三浦刑事もあの時の捜査員も、なぜか、科学者親子のことを失念していた。どうやら、一部の記憶が消えているようで、そこに、科学者親子が絡んでいるようだった。
「俺たちの目的が達成されるのはこれからだ」
と、親子二人はほくそえんでいる。
「科学というものは、これくらいに厳重に堂々巡りを繰り返さないと成就しないもので、さらに一番厄介な、邪魔というものが入らず、できることであろう」
と、相手をやっつけるのではなく、
「宇宙怪獣を宇宙に返す」
ということが一番有効だったように、相手の意識をそぐということを、記憶喪失によって成し遂げるという第一段階の研究は終わった。しかも、毒を仕込んだのが、タバコという、今後すぐになくなってしまうもの、そして、吸っているところがいかにも罪悪に感じるもの、そういうものが、計画には不可欠だったのだが、うまくタバコというものがあったというものだ。
「この親子、一体何を考えているというのだろうか?」
( 完 )
39
作品名:タバコと毒と記憶喪失 作家名:森本晃次