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殺人前交換の殺人

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「話を聞いていないのではないか?」
 と思われ、
「ナメてるのか?」
 と言われかねないので、態度一つをとっても難しいところである。
 敦子が警察に行くと、その生徒は、すっかり神妙になっていた。
 そもそも、敦子はその生徒のことをあまりよく知らない。
 というのも、いつも教室の端の方で、目立つようなことも何もなく、いつも下を向いて、決して、気配を表に出そうとする生徒ではなかった。
 だから、警察からその生徒の名前を言われて、一瞬、
「あれ? どんな顔だっけ?」
 と思ったほどだった。
 全く特徴らしい特徴もない。成績もいいほうではないが、悪い方でもない。ある意味、
「何でもこなす、平均的な生徒」
 といってもいいだろう。
 正直にいえば、他にいろいろな問題を抱えている生徒にかかりっきりになってしまったり、逆に受験シーズンになれば、成績のいい生徒をいかに優秀校に入学させるかということが大切になり、そのため、平均的な生徒を無視してしまうことがあった。
 だからこそ、このような平均的な生徒が、犯罪を犯す。
 といっても、重大犯罪ではない、ちょっとした、コソ泥のような、言い方は悪いが、
「陳腐な犯罪」
 とでもいえばいいような、本音をしては、
「そんなどうでもいいような犯罪で、こっちの手を煩わさないでほしいわ」
 といいたい。
「だからといって、凶悪犯罪に手を染めればいいというわけではないので、誤解のないように」
 という心境である。
 どうやら、ほとんど警察からの取り調べに対して、口を開いていないようだ。
 これが警察だから、それほど相手を困らせるということはなかっただろう。百戦錬磨の警察だから、それこそ、
「慣れている」
 ということなのだろう。
 それでも、何のリアクションも示さない相手にいくら説教しても、
「暖簾に腕押し」
 こっちが、疲れるだけだということは分かっていることであろう。
 そう思うと、警察も余計なことは言わないようにしていた。先生が来てくれたということも彼らにとっては、
「助かった」
 と感じることであろう。
 取り調べを受けている本人とは別に先生は別の刑事から話を聞かされ、どうやらただの万引きをしようとして店の人に捕まったということだが、別に本人は、最初から隠そうとしていたわけではなく、ただ、お金を払わず、店の商品を持ったまま、外に出ようとしただけのようだった。
「ということは、最初から万引きをしようという意識がなかったということですか?」
 と先生が聞くと、
「態度を見ている限りでは、そう思えるんですよね」
 と刑事は言った。
「衝動的な犯罪ということでしょうか?」
 というと、
「まあ、そういうことになりますかね。だからと言って許されることではない。逆にいうと、衝動的なことだということになると、問題は別のところにあるわけですよね? 日ごろの生活から来ているものであったり、本人の性格かも知れない。正直、警察は、犯罪に関しての取り締まりや、事実関係を認定し、検察と検討し、起訴するかどうかまでが仕事です。少年犯罪となれば、少し違いますが、これが非行でなかったり、裏に誰かチンピラのような男がついていれば、そういう組織の撃滅に奔走するんですが、本人の、しかも、無意識な犯行ということになると、お手上げなんですよ。そこは、学校であったり、親御さんの問題ではないかと思うんですよね」
 と、刑事はいうのだった。
 敦子だって、中学の先生をしているのだから、それくらいの理屈は分かっている。
「じゃあ、どうすればいいと?」
 と刑事に聴いたが、敦子としては言われることは分かっていた。
「本人も初犯のようですし、後は学校側に任せます」
 といって、先生が身元引受人ということで、とりあえず、その日は許されることになった。
 被害を受けた店側も、少年の殊勝な態度に、さすがに気の毒に思ったのか、
「穏便に」
 といっているようだ。
 本人が、
「親や警察には言わないで」
 と訴えたが、さすがにそうもいかず、警察を呼んでしまったことに、少し負い目を感じているようだった。
 警察も、引っ張ってきたはいいが、ここまで、神妙に黙りこくっていれば、どうすることもできない。本人が口を開いたのは、自分の身元に関してのことと、
「すみません、自分が万引きをしたという意識はなかったんです」
 というだけのことであった。
 さすがに刑事もその言葉を聞いて、
「意識がなかったじゃあ、済まされないんだよ」
 と、机を叩いたくらいに、苛立っていたようだ。
 なかなか喋ろうとしない中、忘れたようなタイミングで、
「万引きをしたという意識はなかった」
 などと言われると、それまで必死で白状させようと、
「なだめたりすかしたりしていたのが、バカみたいではないか?」
 と思えたからだった。
 そんな生理不を警察も聞きたいわけではない。むしろ、
「むしゃくしゃしていたから、やったんだ」
 という一見、理不尽と聞こえるような言い訳でもされた方がましな気がした。
 この少年の言葉は、理不尽でもいいわけでもない。それ以前の問題だったのだ。
 言葉もその一言を言っただけで、それ以上の進展はなかった。
 それはそうだろう。本人が、
「意識がなかった」
 と言っているのだから、その言葉をまともに信じると、それ以上、少年側から何も出てくるわけはないのだった。
 これが、大人の犯罪者相手だったら、
「黙ってちゃあ分からないんだよ。こっちは、調書ってものを作成しなければいけないんだ」
 と言いたいに違いない。
 それだけ、
「警察だって、暇じゃないんだ」
 ということである。
 正直、ここまで反応がないと、いくら警察と言えども、
「やってられないな」
 と思うのも、無理のないことだろう。
 少年がどこまで計算していてのことなのか分からないが、警察とすれば、一刻も早く、親か学校の先生に言って引き取ってもらうしかなく、
「学校の先生と、親、どちらかに身元引受人になってもらうしかないんだけど?」
 というと。
「じゃあ、先生に来てもらってください」
 というので、学校に連絡した次第だった。
 そこで、
「敦子先生の出番」
 ということになったのだが、警察での取り調べも、
「大変なのだろうな」
 とおおよその想像は敦子にはついていた。
 担任である自分が、思い出せないほど、印象が薄い生徒を相手に尋問しているのだ。
「きっと、何も差ベラないんだろうな」
 と思っていた。
 神妙にはしているだろうが、それは本当に怯えや反省からの態度なのかどうなのか、敦子には分からなかった。
 むしろ、そうではないような気がしてならないのは、
「今までの受け持った生徒のほとんどが同じだったからだ」
 と感じていたからだった。
 いろいろな生徒を思い出していた。
 いつも目立っている生徒に限って、つかみどころがなく、おどけているのが、
「わざとではないか?」
 と思えたのだ。
「逆も真なり」
 というべきか、今回の生徒のように、
「なるべく目立たないようにしよう」
 と思っている生徒の方が、
「余計に、何を考えているか分からないふりをして、どこか気になってしまう」
作品名:殺人前交換の殺人 作家名:森本晃次