小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

双子

INDEX|19ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

 その友達がどこにいたのかというと、業務用の冷凍庫の中に入っていたようだ。もちろん、壊れているので、電気も通っていないということで、凍死することはないが、その分、空気穴になるような部分は、隙間ができていて、すぐには死なないようになっていた。
 しかし、これは、生き埋め状態で、探偵小説で読んだ話と同じではないか。
 もっとも探偵小説を読んだのは、その事件からだいぶ後のことなので、読んだ時は、
「気持ち悪い」
 と思ったが、その時の閉じ込められた事件と直接結びつくことはなかった。
 だが、今回は、そうではない。牢屋のようなところに閉じ込められ、逃げられない状態にされていて、助けがくるわけでもない状態で放置されれば、探偵小説のイメージがよみがえってくる。
 さらに、
「何か忘れていないだろうか?」
 という思いが頭の中に残っていることで、最初はすぐに思い出せないもどかしさがあったが、今度は思い出してしまうと、
「あちゃあ、思い出さなければよかった」
 と思ったのだ。
 それが、友達が記憶を失った時のことであり、鬼ごっこの時、不注意からなのか何なのか、閉じ込められてしまったことで、どうすればいいのか、あの時の友達と同じ感情であろうと思った。
 そうなると、
「あの時の友達の苦しさは、こんな段階ではなかったんだな。これじゃあ、本当に生ぬるい」
 と感じたのだった。
 そう思うと、
「記憶を失うくらいのトラウマは、当たり前のことよな」
 と思うと、今度は、別の考えが頭をよぎるのだった。
 本来であれば、
「いかにすれば、助かるんだ?」
 と、何をおいても考えるはずである。
 しかし、忠次が考えたのは、別の発想であった。
「俺は、このまま助かったとして、トラウマに悩まされて生きなければいけないのだろうか?」
 という思いであった。
 友達が、あの後、しばらくは人と会うこともできないほどに憔悴していて、
「学校なんて、とんでもない」
 というくらいである。
「しばらく、どこかの静かなところで静養しないといけない」
 と先生から言われたのだが、
「そもそも、その静かで静養できるところで事故に遭ったのではないか、だったら、どこに行けばいいというんだ」
 という嘆きが、家族から聞こえてくるようだった。
 そのうちに家族は、逃げるように街を離れていった。
 ウワサで聞いたところによると、
「親は毎晩、子供のことで大げんかをしている」
 という。
 ひどい時には、警察を呼ばないといけない事態に陥り、まわりの人も相当気を遣ってはいたが、気を遣うだけではどうにもならないのだった。
「だから、追われるように、街を出ていくしかなかったんじゃないの?」
 ということで、いわゆる、
「夜逃同然だった」
 ということである。
 家族がどこに行ったのかまでは分からなかったが、
「親は離婚して、子供は、母親が引き取ったようだ」
 ということであった。
 そんな悲惨な状態では、家庭崩壊を通り越している。元々何があったのか分からない。子供が遊んでいて、勝手に閉じ込められたとしか親は見ていないのだろう。
 だから半分は他人事であるが、親の立場として、父親と母親では違う。
 父親としては、
「お父さんは子供のことを私ばかりに任せて、自分は好き勝手なことをしている」
 と思っていた。
 実際に、旦那の不倫のウワサはあったのだ。
相手は会社の後輩の事務の女の子だというではないか。
「あんな女にうつつを抜かすような男だから、子供の面倒も見切れないのよ」
 という。
 そもそも結婚した時、
「火事は分担。子育てはできる方がその時行う」
 という話がついていた。
 子供ができて、最初は少しだけよかったようだ。
 しかし、母親が、マリッジブルーに陥り、しかも、公園デビューには失敗し、そのため、あぶれた人たちだけの、
「ママ友集団ができてしまった・
 元々、あぶれた奥さんたちが集まっているので、本来まとめ役となるべく人がおらず、
「行くところがないから、ただ集まっている」
 というだけのことである。
 そうなると、奥さんは、
「誰を頼っていいのか、自分がいる場所が分からない」
 ということになる。
 しかし、それを父親は、
「そんなのは、自業自得じゃないか?」
 と思ったようで、母親のいうことを一切聞かなかったという。
 その時点で、子供そっちのけの夫婦喧嘩である。
 そうなると、夫婦はまとまることもなく、離れていく一方であった。
 そんな夫婦だったということは、少し前に、両親が話しているのを聞いて知ったのだった。
 中学生くらいになると、裏までは分からなくとも、夫婦間くらいのことは、理屈では分かる気がする。
 実際に、両親が何を言いたいのかということまでは分からなかったが、分かったことは、
「元々、家族にひずみがあった子供は、例の事件のようなことになれば、まるで、自爆装置を自分で推したようなものではないか?」
 と感じたのだ。
 そして、自分で推してしまうと、
「もう誰も助けてはくれない」
 ということになり、本来なら庇ってくれるはずの親が、自分のことで喧嘩になっているということは、まず自分を助けてくれるわけはない。
 そのうちに、
「自分たちが喧嘩しているのは、そもそも、あんたのせいじゃない」
 と言い出しかねない。
 そうなってしまうと、話は悪い方に拗れてしまい、収拾がつかなくなると、その責任は、こちらに飛んでくるのだ。
 ただでさえ、怖い思いをして、トラウマになっているところ、味方だと思っていた人間が、実は敵だったということで、四面楚歌に陥るのではないだろうか?
 前に、学校で心理学が好きな先生がいて、面白い話をしていた。
「人間は、心理的に追い詰められたりすると、自分のまわりにいる人たちが、実は、悪の秘密結社によって、入れ替わっているんだという気持ちになるという」
 という話をしていた。
「それはどういうことですか?」
 と聞かれた先生は、
「普段は助けてくれるはずの立場の人が、自分を殺そうとする連中のせいで入れ替わっている。だから、お父さんが自分を殺そうとしていたりすると、まずはお母さんのところに助けを求めにいくだろう? だけど、お母さんもすでに入れ替わっているというわけさ。そうやってまわりの人を一人一人当っていっても、すべてが入れ替わってしまっていて、一人追い詰められてしまうという感情なんだ」
 というではないか。
 それを、先生は、
「カプグラ症候群というんだ」
 というではないか?
 これは先生が子供の頃に、アニメで似たような話があって、だから、この考え方が気になったので、心理学を少し大学で、勉強してみたりしたんだよ」
 というのだった。
 そんな、
「カプグラ症候群」
 のような話を聞いたことで、友達はきっと、大きな絶望を味わったのだろう。
 それを思うと、自分が、今度は似たような立場にあると考えた。逃れることのできないもので、
「俺が一体何をしたんだ?」
 ということを最初に感じた。
 当然、何かをしないとこんなひどい目に遭うはずはないという思いである。つまりは、世の中というものは、
「因果応報でなければ、辻褄が合わない」
作品名:双子 作家名:森本晃次