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合わせ鏡のような事件

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 翌日になって、父親が逮捕された。何と、容疑は、息子が第一発見者になった事件の犯人としてであった。
 何が何か分からなかったが、少ししてから、大逆転で、真犯人が逮捕された。
 その真犯人というのは、これも何とであるが、
「片倉刑事だ」
 というではないか。
 片倉刑事は、普段から、ギャンブルにのめりこんでいた。それを知った街のやくざは彼に近づき、もちろん、片倉刑事はやつらが、やくざだということを知らずに、友達のように接していた。
 ギャンブルでも、金を借りるための手筈や段取りもしてくれた。本当であれば、刑事の普通の判断力であれば、危ないことくらい分かりそうなものなのだが、少しずつ判断が鈍るような薬を盛られていたのだ。
「そういえば、片倉刑事は、最近、突拍子もないようなことを口走ったり、支離滅裂に感じられることが時々ありましたね」
 と部下が言っていた。
 それを、
「怪しい」
 と思いながらも、なかなか上司だから、いさめることもできず、犯罪捜査と一緒に、片倉刑事の動向も監視しなければいけなかった部下としては、結構大変だったことだろう。
 だが、まさか、上司が犯罪に、しかも、殺人事件に加担していたとは、思いもしなかった。
 いや、この事件は、正確に言えば、殺人事件ではない。そして、殺人未遂でもない。
 被害者は、殺害されたわけではなく、自然死で死んだ人間を、凌辱した形になる。死後隠蔽というか、殺害されたことにより、その男が保険金を受け取ることができるからだ。
 ということは、その男は、最初は、自殺をしようと思っていたということなのだろうか?
 いや、彼は不治の病に侵されていて、実際に治る可能性はかなり低いということだった。
 さらに彼は、保険金を、多額にかけていたのだ。
 彼も、ギャンブル好きで、そのために、やくざに利用された。
 つまり、その保険金をだまし取るために、利用されたのが、片倉刑事だというわけだったのだ。
 そのことを、探偵である父が探っていた。その捜査を依頼したのが、男の唯一の身元である親戚の男だった。
 被害者の男は、やくざに親戚の男がいることを言わなかった。ある意味、保険のつもりだったのだろう。それとも、やくざが何かしないかということを恐れたのだろうか?
 自分にやくさが、保険金を掛けられていることを、男は理解していた。不治の病なので、ほとんど自暴自棄になっていて、最初は、
「別にいいか?」
 と思っていたが、冷静に考えると、やくざに甘い汁を吸わせて、下手をすれば、親せきにまで迷惑をかけるというのは、本意ではなかった。
 それを考えると、
「死ぬのは仕方がないが、このままでは、死んでも死にきれない」
 ということで、梶原の父親に頼み、やくざによる企みを何とかしてほしいというものだったのだ。
 だが、なかなかうまくいくものかと思っていたが、とりあえずは、男のまわりを取り巻いている環境を調べることにしたのだ。
 ただ、問題は。
「男には時間がない」
 ということであった。
「いつ、病気が悪化するとも限らない。今のままでは、保険金はやくざたちのものだ」
 ということであったが、男は結末は何となく分かっていた。
「私が殺されるということはないだろうが、保険金を得るためには、私が自殺では困ると思っているだろう。ただ、私には、保険金の他に、財産がある、それを受け取るのは、親せきだということを、遺言には書いているんだ。もし、このままであれば、殺人ということになれば、親せきが疑われないとも限らない。私はそれを器具している。その器具を払拭させてくれたのが、あなたが、私に会いにきてくれたことなんですよ。私からもお願いします。やくざの思い通りにならないようにしてほしいんです」
 ということであった。
 父親は、捜査をしている間に、片倉刑事に辿り着いた。片倉刑事のホモ、やくざに関しては目を働かせていたが、この男については、やくざ連中から、見張るように言われていただけだった。
 そして、
「この男がもし、自殺を試みるようなことがあれば、自殺では保険金が取れないので、殺されたかのように、偽装するんだ」
 という命令を受けていた。
「さすがに刑事の私がそんなことは……」
 といってはみたが、そんなことが通用するわけがない。
 やるしかないということであった。
 男は、この場所で本当に自殺をするつもりだったようだ。正直、ほとんど末期の状態で、いつ死んでもおかしくない状態で、このままであれば、保険金がやくざに行くと思ったのだろう。自殺であれば、保険金は下りないということで、ある意味、
「時間との闘いだった」
 わけである。
 梶原の父親が、ずっと見張っていた。そして、片倉刑事がやったことをすべて見ていて、さらに、死体に細工をしたのだ。
 実は父親は、さらに監視している自分をやくざが見張っていたことを知らなかった。今回の逮捕劇は、そこからの通報というしかけだったようだ。もう少しで。
「ミイラとりがミイラになる」
 というところであったが、何と、その危機を救うことになるのが、梶原だった。
 その時は梶原は何が起こっているのか分からなかったが、片倉刑事の怪しいところが分かっていて、そのあたりを指摘することで、彼への捜査が、警察内部で、極秘裏に行われた。
 つまり、当事者が、それぞれの思惑を持っていながら、自分が気にしなければいけない相手だけしか見ていなかったので、天界はすべてが、狂ってしまったかのようだったが、一回転してうまく回っているかに、見た目は見えたのだった。
 そのおかげで、事件の全容が見えてきた。息子は父親を助け、父親は被害者を助けた。
結局、片倉刑事は逮捕され、やくざの方も、捜査が進んでいくことになった。
 最終的には、死因は自然死ということになり、保険金は、やくざへ行くことになりそうだったものが、捜査が進む間は保留ということになった。
 きっと最終的には、やくざに行くことはないだろう。
 見た目は実にうまいこと行った。
 では、この事件で最終的に得をしたのは誰だというのか?
 勧善懲悪という意味ではうまくいったのだろうが、そのあたりは、誰も知る由はなかったのだ。
「合わせ鏡のような事件」
 まさにそう言ってもいいのではないだろうか?

                 (  完  )
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作品名:合わせ鏡のような事件 作家名:森本晃次