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色々な掌編集

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怒りの日



「どうだ、貯まっているか?」
「ああ、かなりな」
友人とそんな会話をしてから3日が経った。いよいよこの区域の《怒りの日》は明日だ。今日は《怒りの日》前日ということで休日だ。前日は誰もが無口になって仕事にならないので休日なのである。《怒りの日》は日本全国ほぼ衆議院の選挙区ごとに、日付をずらして決められていた。

このままでは国民の不満が爆発し、何が起こるかわからないという状況の中で、為政者の誰かが考え出した《怒りの日》。これが国民に受け入れられたのには理由がある。まず生理的に気持ちがいいのである。

各自治体の公民館やコミュニティセンターに集まった人々は、この日の為の飲み物を呑み、個人であるいはグループで怒りを思いっきりぶちまけるのである。この飲み物が無いと《怒りの日》は成功しなかっただろうと言われている。とある民族が祭事用に用いられていた歴史の古い飲み物で、それを近代科学が分析、量産可能になった。当然臨床的にも無害であることが証明されている飲み物ということだった。

個人差がある怒りの吐き出しが、この飲み物によって誰もが怒りや不満を吐き出せるのであった。各会場に集まった人々は選挙のように受付で名簿の本人確認をし、いくつもあるブースに入り怒りを吐き出すことになる。

さらに、参加者には各地域のみでしか使えないが、商品券が貰えるのも大きい。怒りの度合いが数字で現れるので、その数字にあった金額の商品券が貰えるのだ。並の数字で各地域の平均収入の1ヶ月分というボーナスだ。参加しないほうがおかしい。当然会場には行列が出来、なかなか廻ってこない順番に怒りを溜めてしまうということも計算に入っているのかもしれない。

オレはもう、貧乏や人間関係など貯めに貯めた怒りと不満で爆発寸前であった。行列は遅々として進まない。それでも皆、このあとの至福の時を想像し、減ってしまった怒りを行列を見てかき立てるということを繰り返している。当然のようにケンカも起きやすい状況であるから、警察官は配置されている。しかし、行列でのケンカは《怒りの日》の恩恵にあずかれなくなるので、よほどのことが無い限り起こらない。その怒りを貯めておくほうが得だということはサルにでもわかるだろう。

やっとオレの順番になった。使用可能のランプの点いているロッカーのようなブースに入ったオレは音声ガイダンスにもうるさい!とどなりつけたくなっていた。
頭にヘッドフォンを着けたところで「それでは、あなたの怒りをぜ~~んぶ吐き出しましょう」
という音声が流れた。
目の前のスクリーンに心電図のような線が現れた。デジタルの数字は他にあったので、単なる目安のようなものなのだろう。オレが怒りの言葉を吐き出すとその線が右肩上がりでどんどん上昇して行く。そしてピーク、下がり出した線を見てオレは必死に呪詛のことば喚いた。また線が上がったが、ピークは過ぎたようだった。

作品名:色々な掌編集 作家名:伊達梁川