色々な掌編集
「お客様、この傘どうします。こちらで処分しましょうか」
さっき、地面に叩きつけたいと思っていた筈なのに。商売とはいえ、若い男のふわっとしたやさしそうな声を聞いて、ニコッと微笑んで「いいえ、持って帰りますので袋に入れてください」と言ってしまった。
ケーキでもいっぱい買って、さあ帰ろう、あの散らかった部屋へ。
見上げた傘の上で雨粒の影がころころ転がっている。それを見ているうちに鼻の奥の方から何かが押し寄せてくる。えっ、なんで今なの? やがて目から暖かい涙が頬を伝う。
ふられた女にふる雨は、やっぱり甘くせつない。