色々な掌編集
ふられた女にふる雨は
いまいましい雨だ。意地でも止むまいとでも思っているように、降り続ける。
この雨が振られた私に優しく涙をさそう筈、本当は泣いてしまうシチュエーションなのに、悔しさがいつまでもおさまらない。
「ごめん! あなたとずうっと付き合って行く自信が無いんです。ボクにはもったいなさ過ぎます。あなたなら、ボクよりずうっといい男が見つかりますよ」
ボクだってぇ、あの顔で、あの歳で。ふん! でもくやしい! 私もいい歳だし、ずっとランクを下げて結婚しようとしてたのに。あ、涙が。やっぱり私も女。ん?でもこれはくやし涙だわ。ますます腹がたつわ。あ、向こうからいい男が。
……ちらっとも見ていない。ああ、二十代のあの頃、外で歩いているだけで、男性の目を惹いていた私が。
約束の時間に10分遅れたら、すぐサヨナラだった。私は時間を守れない男はきらいよ。思い出すと、時間は守るけど、わけの分からないことを言ってた男がいたっけ。
「ボク、どこが悪かったんでしょうか、あ、ボクお寺で修行してきます。がんばってあなたに相応しい男になってきます。その時は付き合ってください」
あの男は、背が低かったけど、美男だったわ。お金持ちだったし、私、どうして別れちゃったのかしら。あれからあの男、坊主になってしまったのかしら。それにしても、いやな雨だわ。
あ、頬にぽつりと、私の涙? かわいそうな私の涙? ん? 腕にも水滴が落ちて染みて広がる。私は傘を見上げる。
えっ、傘からしみているんだわ。いつの間にか水をはじかなくなって。傘まで私をバカにして、くやしい!
あの頃、買ったばかりの傘のように、水玉をころころ転がしていた私の肌。まだ大丈夫よねと思いながら過ごしたここ数年。そして傘から漏れた雨で肌の衰えを知らされるなんて。
ええい、いまいましいこの傘、地面に思いっきり叩きつけてやりたいわ!! でも濡れるのもイヤだし、買い換えよう。思いっきり派手な傘に……。