色々な掌編集
門限
――小さいお子様をお連れの方は手をつないで、お乗りください――
小さな子がエスカレーターで事故を起こさないためのアナウンスが流れると、エミは悪戯っぽい顔と声で、「小さなお子様だって…」と私の手に触れた。エミはたしかに小さいのだった。
その笑顔は、以前花火大会が終わった時に会場で流れていた――小さなお子様の手をつないで……―のアナウンスに似ていて、エミはそれを思い出したのかもしれない。
あの日、「ほら、小さいひとは手をつながなくては」と私が差し出した手を、ちょっとのためらいの後に握ったエミは、人混みの隙間をどんどん前に進んだのだった。それはまるで、婦人警官に連行される犯人の男というような姿に思えて、私は途中で手を離したのだけど、エミはその時には嬉しそうでも悲しそうでもなく、私はちょっと残念に思ったのだった。