色々な掌編集
思え起こせば、あのひとはわたしと一緒に歩いている時も、見知らぬ小さな子供に視線を向け、時に話しかけたりもしておりました。その嬉しそうな顔に、わたしは嫉妬さえ覚えることもありました。
亀の親子は少しずつ遠くへ離れていって、やっとあのひとが立ち上がりました。わたしは身も心も立ち上がりました。頭に浮かんだその考えは、なかなか良いものではないかとわたしは思い、少しうきうきした気分になることができたのです。
あのひとの脇をわたしは歩きだしました。あのひとが(おやっ?)という顔をしたのを見上げながら、わたしは疲れている筈なのに、どこまでも歩いていけるような気分になっておりました。
春、そうだ、春。暖かくなったら亀の番いを飼ってみよう……そう思ったのです。