色々な掌編集
俺はアドリブで歌を唄いながら歩いた。女は俺の背中でしゃくり上げながら、俺のブルースを聴きながらその内に眠ってしまった。背中の感触もいつしか俺の身体と一体になり、肉親のように感じてきた。
安アパートに帰り、むっとした部屋の窓を開けながら少しためらった。女を万年床に降ろすにはちょつと気が引けたが、毎日西陽が当たり消毒されている言い訳して女を降ろした。女は俺から離れるときにイヤと言い、しがみつく格好を見せたが、直ぐに力を抜き寝てしまった。
はげた化粧の下の肌が若々しいことに、俺の男が目覚めかけたが、幼い顔立ちと涙の跡が父性を目覚めさせ、自分の三十歳という年齢を思い出させた。さんざん泣いたせいか女は穏やかな表情で眠っている。思い出して足元を見て靴を脱がせた。小さな足がかわいいと思った。その白い足に思わずそっと口を付けてみた。
又俺の男が目覚め始めた。女がくくっと笑う。俺は目が覚めたのかなと思い顔を覗いた。微笑みながら夢を見ているように口が少し動いた。俺は優しい気持になってタオルケットを掛けてやり、女の寝顔を見ながらビールを飲み始めた。
身体がふわふわと感じる。顔が自然とほころんできて笑い出しそうになった。酔っぱらって大泣きして寝てしまった女の顔を見ながら、ニタニタしながら酒を飲んでいる自分に気付いて「何という間抜けなシーンだ」、そう思いながらも、永年足りなかったものを見つけた充足感でいつしか眠ってしまった。