色々な掌編集
退社時間が過ぎて、数人が駅に向かって歩いていた。途中、パチンコ屋に入って行く者、地下鉄利用の者と別れて、私はユキと二人になった。ユキは同じ課の後輩であり、昼休みなどに話をすることもあって、退社時たまに二人きりになった時に、電車で二つ駅先にある繁華街をぶらぶらしたりしていた。
いつの間にか当然のように残業か特別の用事でもなければ毎日となり、ユキは私の住んでいるアパートにも来るようになった。それは楽しい日々であった。でも、私には病気ともいえるパチンコ好きがあって、二人のデートにもパチンコ店に入るようになった。最初興味を示して、一緒にやっていたユキもすぐに飽きて、私が一生懸命にやっている側で退屈そうに見ているようになった。
ユキが友達と会うという日に、私はパチンコで大勝ちしてしまい少し控えていた熱がぶりかえしてしまった。
ある日、ユキは黙って私について歩いていた。私が古本屋に入ると、一緒に入って本を探していた。なぜかその時私は、ユキを鬱陶しいと思ってしまった。少し離れたもう1件の古本屋に入った時も黙ってついてきた時に、私はユキに向かって「先に帰ってもいいんだよ」と言った。その時にユキが、「一人になってパチンコでもしようと思ったんでしょ」とでも言ってくれれば、苦笑しながらも、一緒にどこかへ行ったのかもしれない。
ユキはまるで別れの言葉を聞いたように、表情を変え、私をじっと睨んだ。そして、何も言わずに背中を向け歩き出した。私は直ぐ後を追い少し離れた後ろを歩いていたのだが、ユキは背筋を伸ばし、真っ直ぐに前を向いて力強い足どりで歩いて行く。ユキは怒りのオーラを出していたのだろう。向こうから来る人々がユキの進む道を開けて通る。水を切って走るモーターボートのようだった。