色々な掌編集
一番近い町を通り抜け、より都会的な街に入ってから
「もうすぐ、着きますよ。お店も盛り上がっている時間だし、寄って行きましょう」
姫子がいう言葉で、太郎爺さんはあらためて姫子のもらった名刺を見た。
<クラブ 竜宮> 亀野姫子
もう何十年かぶりに見るネオン街、太郎爺さんの頭の中もピンクのネオン色に染まりつつあった。
クラブ 竜宮で、自分の周りが女女女姫子女女女という中で、飲めや歌えや踊れや触れやを続けた。気が大きくなって【貯めた箱】を見せびらかすこともしていた。
太郎爺さんは寒さで目が覚めた。
潮騒の音が聞こえる。
頭が痛い。そして胃がむかむかする。
目を閉じているのに回りが黄色っぽく思えた。
姫子……頭に浮かんだ名前。
手に残る柔らかい感触。
腰に残っていない【貯めた箱】の感触。
太郎爺さんは、がばっと起き上がり自分の身体をなで回す。
ないっ! 有り金全部入った【貯めた箱】が無かった。
それから辺りを見渡した。
海だ!
ああ、姫子が連れてきてくれたんだ。
そう思った時、車のエンジン音がした。
その方向を見た太郎爺さんは、見覚えのある車が走り去るのが見えた。
太郎爺さんは放心状態で砂の上に腰を下ろした。それから無意気のうちに砂を掘っていた。
何かに憑かれたように大きな穴を掘り、その中に身を横たえた。
太郎爺さんは、このまま死なせてくれるように神様にお願いをした。
太郎爺さんは身体が痛いのに気づいた。
ツン 痛い ツン 痛い
薄目を開けてみると、子供が数人いて、棒で突っついている。
太郎爺さんは首をすくめ、そして手足も甲羅の中に引っ込めた。
神様は余計なことまでしてくれた……おしまい。