色々な掌編集
さあ、と洗ったズボンを搾っていると、制服の駅員ともう一人が入ってきた。もしかしたらさっき慌てて出て行った人物が駅員を連れて戻ってきたのかも知れない。というよりそれ以外に駅員がやってくる筈がない。駅員は半分逃げ腰で「何をなさっているのですか」と訊ねてきた。
私は苦笑しながら「泥の所に転んでしまいましてね」と言った。
駅員が警戒の表情を緩めた。でも、そのあとに困った顔をして
「でも、その格好で歩かれても困りますねえ」
と下半身が下着だけの姿を見て言った。
「いや、ちゃんと履きますよ」と濡れたズボンを履こうとしたら、駅員はあわてて、
「あああ、ちょっと待って下さい。何か探してきますので」と出て行った。
私は濡れたズボンを持ったまま、待つことになった。何人もの人が私を見て通り過ぎた。もしかしたらこの辺でかなりの有名人になってしまったのだろうかと考えていると駅員が多分ズボンだろうものを持って戻ってきた。
「これしかありませんでしたが」と差し出されたズボンを履いてみて、その温かさに涙が出そうだった。しかし、太さは合うものの長さが足りない。私は駅員の体型をみながら、文句を言える立場ではなく、ただ「ありがとうございました」をくり返した。
「あ、それはもうお返しいただかなくても結構ですから」と言って駅員は去って行った。
ズボンを履き終えた自分の姿を見る。ルパン三世のように靴と裾の間に足が見える。それも20cm以上ありそうだ。私は自分の長い足を呪った。ズボンを目一杯ずり下げた位置でベルトを締めた。
しかし、これで家まで帰るしかないだろう。トイレを出てホームまでぎこちない足運びで歩いた。こちらを向いて歩いてくる人々皆が私の足元を見ているような気になってしまう。
しかし電車に乗るまで、私の姿、特に下半身を見て行っただろうか。誰もがにやけたり呆れた顔はしていない。それどころか羨望の眼差しさえ見える。
それ以来だろうか、世間の若者に腰パンが流行だしたのは……。
【どうも半端な終わりかただ。というので別バージョンにつづく】