色々な掌編集
僕は腕のしびれを感じて目が醒めた。腕と胸の間にすっぽりと頭を埋めて眠っている妻の顔が一瞬英美に見えた。それを起こさないように、そうっと腕を真横に伸ばした。堰き止められて滞っていた血液が流れ始めて、痛いようなくすぐったいような感じがした。妻は依然として安心した顔で眠っている。
僕は半分寝て、半分起きているような気分で英美のことを思い出している。あの時も確か、僕の腕の中で安心して眠っている姿を見て、この幸せだけで充分だ。そう思った筈なのに、あまりに似たもの同士だったせいか、時々イライラしてしまっていた。相手を傷つけてしまうことは、結局自分を傷つけることになってしまう。
二十代前半に出会うのじゃなくて、三十代に出会っていたら、どうなっていただろうなどと考えているうちに、次第に考えがまとまらなくなってゆく感覚を感じながら僕は眠っていた。
何だか、妙に懐かしいような淋しいような気分で目が醒めた僕は、隣に寝ている妻が半回転して僕の足を胸に抱いて寝ているのを見て苦笑した。妻の寝顔を見ているうちに、その懐かしくちょっと物悲しいような気分が少しずつ溶けて消えていった。