色々な掌編集
そのまま深い絆で結ばれるかと思っていたが、やがて、あまりに相手を解ってしまって、言葉を省くようになってしまった。
「本当に急な話だったのよ、田舎から高校の友達が出てきていてね、時間があまったから会いたいと言ってきたから、私も会いたくてね、ごめんね」
受話器から聞こえる英美の声は、明らかに弾んだ声で、僕は反対にイライラしてきた。それはせっかく予定を立てていた鎌倉行きがダメになったせいだけではない。
英美の言っていることは嘘ではないだろうと思っていたし、事情は解る。僕は嫉妬しているのだろう。勝手に順番をつけてしまって、なんでも英美の一番でいたいと思っていたんだ。現実に予定の順番を後回しにされてしまって、怒ってしまっている。自分でも情けなくなって、解ったとも言わずに電話を切ってしまった。それからすぐに、僕の気持ちが落ち着く間もなく電話がかかってきた。
「怒っているの? 友達って男じゃないよ。本当に仲良くしていた女の同級生だよ」
ちょっと前までは弾んでいた英美の声が、沈んだ咎める口調になっている。僕はその違いに気をとられてしまって、自分の狭量さを反省したばかりなのに、うまく言葉に出来なかった。
「じゃあ、友達と会うの止める。止めるけど鎌倉にも行かない!」英美の声は完全に怒っている。
自分の気持ちを解ってくれるだろうと、甘えていたのだろうか。僕は謝ろうとしていた筈なのに、拗ねた子供のように黙ってしまった。そのちょっとの間も待たずに英美は電話を切ってしまった。英美もいつの間にか小さな不満が溜まっていたのだろうと思ってはみたが、僕はまだ怒りもくすぶっていた。
テレビではお笑いタレントが、ただ身体をつかっただけのネタをやっていた。観客の笑い声が空しく聞こえて、僕はスイッチを切った。
頭の中で英美の声が何度も何度もくり返されている。僕は英美に謝ろうと電話をした。しかし、呼び出し音がずうっと響いてくるだけだった。