色々な掌編集
何度か未央とデートをした。未央と逢った最初に(あれっ、少し違う)という違和感があるものの、おっとりしたしゃべり方も、さりげなく腕にすがる近づき方は変わることがなかったので、安心した。
「雅充さん、私の他に女の人いるんでしょう。その人と同じ場所に行ってるんだ」
ある日、真剣な顔で未央が言った。雅充は全く身に覚えが無いので、真っ直ぐに未央の目を見ながら「えっ、何を突然に、そんな女性いないよ」と言った。
未央も真っ直ぐに見返し、やがてその目は自信のなさそうな目に変わり、やがて何事も見逃さないぞという目になっていった。それから感情を押し殺し、
「前に一緒に行ったお寺の紫陽花、綺麗だったね」と言った。
「うん、ちょうど見頃でよかったなあ」
未央の表情が動いた。
「ケーキもおいしかったなあ」
「うん、やっぱり有名店の味は違うね」
未央が怒りと悲しさの混じった顔になる。ん? どうしたのというように雅充が未央を見る。
「フクロウの置物ありがとう。でも、あれ小さすぎて掃除機で吸い取ってしまいそうになるんだよねえ」
「え、そうお。スゴイ吸引力の掃除機なんだ」
未央は完全に怒った顔になっている。雅充は未央が何を怒っているのか全く分からない。
「私、ずっと日記を付けているの。間違えるはずが無いわ。私のすぐ後に違う女の人と同じ場所に行ってるんだわ。そうでしょ!」
未央はだんだん感情が昂ぶってきて、半泣きになりながら、
「表情も変えずに嘘をつく人なんだ。そんな人とはつきあえないわ!」
歩いて来る人たちが驚いたように道を譲る。まるで波をたてて走るモーターボートのように未央が去って行く後ろすがたを、雅充はあっけにとられて見ていた。
「わからない、どうなってるんだ……」