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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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続・おしゃべりさんのひとり言/やっぱりひとり言が止めらない

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・・・当時、ベストセラーとなっていた書籍に『アガスティアの葉』というのがあり、その内容っていうのはインドのどこかの寺院に、葉っぱに書かれた古い書物が大量にあって、その中にはそこを訪れた者の一生が記された書まで存在するという、眉唾感の強い実話ものだ。
なんとトヨキチが「その書を探しに行く」と言い出したのだ。それに興味を持っていたのはトヨキチだけじゃない。僕もそうだった。
なぜそんなものを信じかけていたかと言うと、僕たちビジネスでの成功を目指す者にとって、神様的な存在の経済アナリストで、船井総研会長の船井幸雄氏が、ビジネスセミナーでこの話題を「本物」と称し紹介されていたからだった。
時を同じくして、『サイババ』という不思議な力でケガや病気を治療するというインドの超能力者のブームもあったんだけど、覚えてらっしゃる方も多いと思います。
その人物は空中から灰のような不思議な粉(ビブーティ)を取り出すことが出来て、僕は実際にインドでサイババに会った知り合いから、ありがたいビブーティを半信半疑ながら少しだけ分けてもらったりしていた頃だったんです。
だからトヨキチの意欲もボルテージが高かったんでしょう。
「お前、そんなバカなこと信じてんのか?」
 「その本で書いてある結婚相手が、ミスズちゃんじゃなかったらどうするんや?」
  「そんな本自体、存在しぃひんて」
皆、当然の反応です。それでもトヨキチには強い思いがあり、一人で旅立って行ってしまいました。
当時はインターネットもあまり一般的じゃなかった時代ですから、どこでどうしてるのか、確認する方法は、向こうからの国際電話のみです。
週に2回くらい卓球練習で会うミスズちゃんから、トヨキチは「今スリランカにいる」とか「船でインドに入った」とか、「色々まわって観光してる」「やっと目的地に辿り着いた」とか聞いていました。
もともとトヨキチはバックパッカーとして日本中をヒッチハイクしていた人なので、(悠々自適に楽しんでるな)って思ってましたけど、皆の関心は、『アガスティアの葉』は実在するかっていうものです。
彼の行程を把握している人はいなかったのですが、彼から突然「帰国する」との連絡があって、約1カ月ぶりに彼の顔を見ることが出来ました。
その時の彼は、真っ黒に日焼けして、端正な顔立ちがより引き締まり、何か強い信念を持ったように感じました。
仲間の家に男女10人くらいが集まって、彼の報告を聞く小さなパーティを催しました。
そこで話された、彼が経験して来た事と言うのは・・・
「タージマハルはデカイよ」とか、「カレーに飽きて、パンを買ったらカレーパンやった」とか、「チベットの街は空気が薄いし、ずっと頭痛が・・・」
(そんなことはどうでもいい!)って皆思ってた。

「で、アガスティアの葉はどうした?」
「なかった」
「は~~~~ん?」
皆のテンションが一気に下がる。
「ほらな、あんな本いい加減やって言ったやろ」
「でも、アガスティアの町中を探したんやで」
眉を寄せて真剣に言うトヨキチの姿は、今も目に焼き付いている。
「それって町の名前やったんか」
「誰に聞いても、どこに存在するんか分からんかったんや」
「結局、そう言うもんやろうな」
「いや違うんや。他にも似た葉が、その町中に有って」
「は!? 葉? いっぱい? ハハハハハハハ」
「うん、誰に聞いてもそれぞれがおススメの葉を紹介してくれて、アガスティアの葉なんか誰も紹介してくれへんかったんや」
(なにそれ? ひょっとして観光誘致?)
「結果、『シヴァの葉』を見て来た」
「フフフフフ。で、どうなん?」
「ものすごく並んだ」
「そんな人気の占いの店がたくさんあるんやな」
「うん、寺やし、町中に分散してるんやけど、案内人が多くいて、そこまで連れて行ってくれるんよ」
「ポン引きみたいな感じか。ヤバそうやな」
「・・・・・・スゴかった。あれはホンモンや」
「え? 何がなにが?」
「まず、寺の前で誕生日と名前を聞かれて、指紋も取られてん。暫く待ってたら男の人がシヴァの葉を持って戻って来て、別室に連れて行かれてから、そこでお金を払うねん」
トヨキチは、日本円で1万円くらいだって言ってた。
「すると、住所を言い当てられたんや。番地まで」
「え、日本の? そんなこと、信じられるか?」
「マジなんや」
この時代(1990年代)、インターネットを駆使しても、そこまで詳しく個人情報なんか調べられたんだろうか?
「他にも家族の名前とか、学校とか色々」
「そんな事、葉っぱに記されてるはずがないやん。どんなトリックやねん?」
「俺もそう疑ったけど、車のナンバーを言い当てられて信用した。だってその車、この結婚を機に買い替えたばかりで、この旅行中には俺も知らん番号やったんやから」
「マジか! 後で当たってるって分かったんか?」
「うん、ミスズに電話で聞いて鳥肌立ったわ」
全員が驚いて言葉も出ない。
「それで、未来のこととか聞いたんか?」
「全部聞いて来た」
「いつ死ぬかとかも?」
「聞いた」
「いつ?」
「そんなん言うか!」
「言うたらヤバいんか・・・」
皆どう扱っていいか分からない。トヨキチは少し震えるように緊張しながら話している。多分、戯言だと思われたくなかったから、慎重になっていたんだろう。
「他には未来に何が起こるとか、自分がどうなるかとか」
「結婚相手は?」
そう質問すると、ミスズちゃんが顔を真っ赤にして、
「あ、ああああ」って叫んだ。
「どうした?」
「私じゃなかったんよ」困った表情で笑いながら言った。
「え? それ信じんの?」
「分からへん。どうしよう?」
「トヨキチはどうするねん?」
「結婚する。そうしたら未来は変わると思う」
「変わった方がいいんやな?」
「ああ」