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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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続・おしゃべりさんのひとり言/やっぱりひとり言が止めらない

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この一連の流れで、皆、戸惑いの表情になっていたが、一人落ち着いている者がいた。神子ちゃんである。
「うん。未来変えてみたらいいと思う」
神子ちゃんが自発的に意見を言った。
「私その話、嘘ちゃう思うねん」
「なんで? 突拍子もないやんか」
「いや、俺も完全に信じてしまってる」と、胡坐をかいたトヨキチが腕組みしながら言う。
「それにしてもよく出来たトリックやろな。タネが解ったら、な~んやってなるで」と、僕が顔を突き出しながら言うと、
「そうとも言えへんねんで。私な高校卒業してからのこと内緒にしてたやろ」
神子ちゃんがいつになく、真剣にそう言い出した。
「うん」僕はその言葉に強く引き込まれる思いだった。
「私、卒業してすぐにな、家にスーツ姿の人が二人来てな、東京の研究所に就職してほしいて頼まれてん」
「なんやそれ、なんかヤバそうな話」
「それからうちの親も色々説得されて、1ヶ月くらいしてな。お父さんが(行きなさい)って言うたから行くことにしてん。もう他の就職先決まってたし、入社直前やったけど」
「それ何の研究所?」
「超能力」
「え? マジ?」
僕はこの話を聞いて、トンネルの出来事を思い出した。
「神子ちゃん、霊が見えるとか?」
「うん。ずっと見えてる。みんなの周りにいる人とか」
「ここに?」
「いるで。おじいちゃんやろ、こっちはもっとご先祖様とか」
「話しできるん?」
「私は感じるだけやけど、会話するんとは違うねん。こっちから何か伝えることは出来ひんねん」
「喋ったら霊にも聞こえるんちゃうん」
「聞こえへんねん。こっちの存在には、あまり気付いてくれへんねん」
「え? 向こうも気付いとらんのかいな」
「知子はそれ知ってたん?」と僕が聞くと、
「なんか見えるらしいとは聞いてた」
知子も半信半疑で、触れたらあかんトコと言う認識だったようだ。
「なんでその能力をスーツで来た人は知ってたん?」
「それを調べる能力があるんやて」
「変な宗教とかじゃなかった?」
「国の施設やった」
「嘘やろ。政府の秘密機関とかいう訳?」
正直僕も半信半疑どころか、彼女に虚言癖があるんだと思わざるを得なかった。
「私はテレパシーの訓練を受けてたん。他人の考えることが見えるねん」
「俺らの考えも?」
「ずっと見える訳ちゃうで、集中して何か簡単なキッカケが有ったら解る時もあるん」
「どんなきっかけで?」
「何か絵を描いてくれたら、私は見んでも言い当てられる」
その場にいた全員が「やろう」と言った。
紙を小さく切って、「その紙切れに何でもいいから書いてみて」と、神子ちゃんが言う。
彼女は後ろを向いたので、僕は簡単に車の絵を描いた。当時欲しかったベンツのエンブレムを付けた車だ。
それを小さく折りたたんで、左手に握った。皆も思い思いのモノを書いた。
そして神子ちゃんは振り返り、僕の左手を両手で握って、じっと僕の目を見た。そしてうっすら微笑むような真顔で、
「ベンツ」と一言。次に隣の知子の手を握って、
「金魚」と言った。そしてトヨキチの手を握って、
「何これ?」と神子ちゃんが止まった。
それを聞いてトヨキチは、黙ったまま口を大きく開けて驚いた。どうやら正解が見えていると気付いた様子だ。
「なんか棒みたいなやつ」と神子ちゃん。
「うう、正解。シヴァの葉の寺で買って来た。お守りの棒」
「そんなん当たるか!?」と僕が突っ込んだら、
「当たってるやん」と知子が突っ込む。
次にミスズの手は握る前から、
「家やろ」と神子ちゃん。どうやらミスズは新居を描いたようだ。これは判り易い。
その後も全員の書いたモノを言い当てた。中には絵ではなく漢字を書いた者もいたが、その文字を「成功」と神子ちゃんは言い当てた。
的中率100%! 何か別のキッカケや、今までの人間関係から得られた人柄や性格の印象から(想像して当てているのかもしれない)と思ったが、それにしてもあまりにも簡単に言い当てるので、疑う余地などもう全くなかった。
しかも後で聞いた話だが、知子が描いたのは実は金魚でなく、昼に食べた「カレイ」だったそうだが、それを(かわいく描いたことで金魚と見間違えたのか)というふうに思えることにも真実味がある。
相手の言葉ではなく、イメージのようなものを感じ取れるのかもしれない。
今となってはオカルトなど信じない僕も、この時の経験が夢ではないのは確かだし、他のメンバーもその時のことをずっと不思議に思いながら生きている。
この事象を心理学的に『集団心理』だとして片付けられてしまうと、僕は到底納得がいかない経験だった。

その後しばらくはその話題で、神子ちゃんは人気者になった。
ボスにこの事を話すと、「ふふふん」と笑ったので、(知ってたんだ)と思った。
ところがある日、神子ちゃんは「神社で住み込みの巫女になることが決まったので、引越す」と言って、僕らの前に姿を現す機会は減ってしまった。
それから2年ほどして、僕は営業研修と言う名目で、ある住宅販売会社で営業マンに付いて、セールスの修行をさせてもらっていた時に、そこの社長さんが「神子ちゃんを紹介して欲しい」と言い出したのだった。
つまり、彼女に亡くなったお母さまの霊視をお願いしたいようだ。
でも、もう僕は彼女と連絡が付くような関係ではなかった。前の携帯番号もつながらなくなっていたんだ。(当時はナンバーポータビリティが無かったので、キャリア変更の度に番号を変えたもんだ)
その社長さんに(僕が嘘を言ってる)と思われるのも困るし、何とか探そうと伝手を当ってみたら、一緒に研修に来ていたトヨキチが「新しい携帯番号を知ってる人がいる」と言ったので助かった。
(因みにこの頃トヨキチとミスズ夫婦は、女の子を一人もうけたあと、僕たちに理由は言わずに離婚してしまっていた)

その後、神子ちゃんが社長さんの自宅に出向いて、その家を霊視したそうだ。
僕はその時に立ち会っていないので、これは社長さん自身からお礼を言われた時に聞いた話だけど、
「母親の部屋のタンスの何段目かの引出しにある、黄色いチューリップのハンカチを、お棺に入れて欲しかったらしいんやけど、既に火葬が済んでしもて叶わんかったんで、常に仏壇に供えといてって言われたんや」との言葉を聞いた。
その他に、「押し入れの中の箱にいっぱい、お父さんが集めてた銀製品があるさかい、お金に換えたらええって言われた」
神子ちゃんて、(そんな具体的な事情まで分かるのか!)って、僕の方が信じられなかったけど、
「そう言われて探したら、ホンマに有ったわ。ありがとう」とのこと。

神子ちゃんとの出会いからもう30年近く経つけど、彼女が巫女さんになってからは交流が無く、現在の消息は僕らには分からない。