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さよなら、カノン

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タクシーのワイパーが低速で動く
雨が小降りになり窓からの視界がきくようになる
後部座席に身を沈めてぼんやり窓の外を眺める正樹
スーパーキナリヤの建物が夜の闇に溶けこんでいる
夜の県道を走行するタクシー
ほどなくして前方に周辺を明るく照らしだすコンビニが見えてくる
窓に顔を近づける正樹
コンビニの駐車場に停まっている車はない
店内に人影も見当たらず溜息をつく正樹
タクシーは緩やかなカーブを曲がり龍神口のバスロータリーに差しかかる
窓の外をぼんやり見ていた正樹が急に跳ね起きる

正樹  「運転手さん、停めてください」

タクシーがバスロータリーを幾分通り過ぎたところで停車する
タクシーを降りてバスロータリーまで駆け戻る正樹
バス停のベンチに人が横たわっているのを視認する正樹
長い髪とすらりと伸びた脚
その肢体に見覚えのある正樹

正樹  「実穂子」

ベンチに駆け寄る正樹
顔は濡れた髪に隠れているが実穂子と確信する正樹
パンプスは泥水で汚れ衣服にも泥や葉クズが付着している
垂れさがった実穂子の手に触れる正樹
体温を感じる正樹

正樹  「実穂子、実穂子」

実穂子の肩を掴み揺らす正樹

正樹  「実穂子、しっかりしろ」

正樹の大声に意識を取り戻す実穂子

実穂子 「パパ・・・」
正樹  「ああ、よかった・・・心配したぞ」
実穂子 「ここはどこ?」
正樹  「バス停だ。今までどこにいたんだ?」
実穂子 「あたし、どうしちゃったのかしら」
正樹  「カノンは?」
実穂子 「あ、カノン、カノン」

周囲を見回す実穂子

正樹  「一緒じゃなかったのか」

ふと正樹の顔を見つめる実穂子

実穂子 「家にいるわ」
正樹  「いや、家にはいなかった」
実穂子 「家にいるの。カノンは家にいる」


タクシーが吉川宅前に到着する
タクシーを降りる正樹と実穂子
正樹が玄関ドアを開けると階段を一目散に2階に駆けあがる実穂子
実穂子の寝室の扉が開いている

実穂子 「カノン」

真っ暗な部屋に呼びかけるが返事も人の気配もない
階段を降りる実穂子
正樹が配電盤のブレーカーを上げる
家中の照明が点灯する

正樹  「カノンは?」

首を横に振る実穂子
リビングのソファの上に白いヘッドフォンを見つける実穂子
思いついたように玄関に飛びだす実穂子
カノンと叫ぶ声とパパと呼ぶ実穂子の声が正樹に届く
素足のまま前庭に飛びだす正樹
月明りの下ブランコが揺れている
2本のロープを掴んでカノンがブランコを漕いでいる
実穂子と正樹に気づくカノン

カノン 「ママ、パパ」

実穂子と正樹の元に笑顔で駆け寄るカノン
カノンを抱きしめる実穂子
カノンと実穂子を抱きしめ大粒の涙を流す正樹


昨夜の荒天が嘘のような青空
小鳥の囀り
開け放たれた吉川宅縁側のカーテン
降り注ぐ朝の陽光
姿見に映る浅葉小学校制服姿のカノン
キッチンに立つエプロン姿の実穂子
ジャケットを羽織りビジネスバッグを抱える正樹
戸外から短いクラクションが聴こえる

実穂子 「お迎えが来たみたい」
正樹  「いよいよだな、カノン」

カノンの頭を撫でる正樹

実穂子 「忘れ物ない? ハンカチ持った?」
カノン 「うん」
実穂子 「じゃあ、行ってらっしゃい」
カノン 「(元気に)行ってきます」
正樹  「僕も行ってくるよ」
実穂子 「気をつけて」

玄関先でしばし見つめ合う実穂子と正樹
正樹に手を引かれて門扉を出るカノン
吉川宅前に”浅葉小学校”とボディにレタリングされたマイクロバスが停まっている
バスに乗る前に実穂子を振り返り手を振るカノン
カノンに手を振り返す実穂子
バスが発車するのを道端で見送る正樹
玄関先に立つ実穂子に背伸びして手を振る正樹


作品名:さよなら、カノン 作家名:JAY-TA