さよなら、カノン
山肌をつたってゴルフボール大の落石が道路に転がる
激しい雨が降り続く山道をサーブは時折水しぶきをあげ走行する
山肌が崩れ反対車線を土砂が埋める横を通り過ぎるサーブ
道路を半分埋めつくした土砂の上にさらに流れついた樹木が覆いかぶさる
その様子をバックミラーでちらっと確認する実穂子
フロントガラスに容赦なく降り注ぐ雨をワイパーが忙しく動いて取り払う
ハイビームの前照灯が雨で霞む山道を照らしだす
道路の白線と白色のガードレールがゲームのように後方に飛んでいく
落石を踏みつぶす度に小さくバウンドする車体
助手席ではバウンドする車体に合わせて身体をわざと弾ませるカノン
落石のひとつがサーブのフロントガラスの角に命中し蜘蛛の巣状のヒビが入る
白い犬のぬいぐるみを強く胸に抱えなおすカノン
道路に打ちつける雨や泥水がサーブと同じ進行方向に勢いよく流れる
ヘッドライトが前方にある障害物をとらえる
崩れた土砂と太い幹の倒木が前方の道路を完全に塞いでいる
ブレーキを踏みこむ実穂子
制動が効かず左右にローリングするサーブ
ハンドルをしっかり保持する実穂子
流れる泥水に阻まれて速度が落ちないサーブ
ハンドルを左に切りサーブの左の前照灯をガードレールにぶつける実穂子
目を強く閉じるカノン
車体の左側面をガードレールにこすりながらハンドル操作する実穂子
少しずつ速度を落とすサーブ
ガードレールが突然途切れる
ヘッドライトに一瞬浮かびあがる灰色の鳥居
次にヘッドライトは鉄のチェーン柵をとらえる
チェーン柵に突っこんでいくサーブ
祈る思いでハンドルを右側に末切りする実穂子
鉄チェーン柵寸前で大きく進行方向を変えるサーブ
タイヤを軋ませながら鳥居の脚に激しく衝突するサーブ
フロントガラスが半分砕けて細かい破片が車内に散らばる
ハンドルに額をつけた状態で動かない実穂子