さよなら、カノン
正樹を乗せたタクシーが龍神口バス停を通り過ぎる
タクシーの中から携帯電話で実穂子に電話をかける正樹
何度か試みるも呼び出し音が鳴るだけで繋がらない
タクシーが吉川宅にほど近い道路脇に停車する
料金を払って領収書をもらう正樹
正樹がタクシーをおりようとしたとき眩い稲妻と切り裂くような雷鳴が轟く
ジーと音を立てながら鈍く光っていた街灯が断続的に光りパッと消える
それまで点いていた近隣の民家の門灯や窓灯りも消える
呼び出し音が鳴り続ける携帯電話を耳にあてたままビジネスバッグで頭を覆って駆ける正樹
門扉を抜け玄関に辿りつく正樹
すでにずぶ濡れである
インターホンを押すが呼び出し音すら鳴らない
正樹 「(ドア越しに)実穂子、帰ったよ」
玄関ドアをノックする正樹
何度かドアを叩くが反応が感じられず不在を受け入れる正樹
縁側を見ると洗濯物が干しっぱなし
鍵を使って玄関ドアを開ける正樹
カーテンが閉められ雨戸が下ろされた室内はほぼ真っ暗
ダイニングテーブルの上でスマートフォンが光を発している
スマートフォンを手にとる正樹
自分の携帯電話で実穂子の電話を呼び出す正樹
正樹の手の中でスマートフォンが振動し木琴音の呼び出し音が鳴る
”パパ・まさき”という文字が画面に明るく表示される
スマートフォンが実穂子のものと確信する正樹
正樹 「実穂子、カノン」
暗い室内を見回し宙に向かって名前を呼ぶ正樹
返事はない