さよなら、カノン
雲間にかかる月の薄明りに照らされて縁側でスズムシが啼く深夜
吉川宅2階廊下の足元照明が点灯する
正樹の部屋のベッドで眠っている正樹とカノン
枕元の豆電球の灯りでかろうじてカノンの寝顔が見える
正樹のベッドに廊下側から幾分強い灯りが射す
”カノン”と呼ぶ声がする
ベッドの上で身をよじらせるカノン
正樹は熟睡している
”カノン”
眠い目のまま上体を起こしベッドの端に座るカノン
明るい光に目を慣らすようにゆっくり目を開けて光が射す戸口を見るカノン
光源を背にした人型のシルエットが見える
ナイトガウンを着た実穂子が正樹の寝室の戸口に立っている
実穂子 「カノン」
カノン 「ママ・・・」
実穂子 「カノン、おいで」
ベッドから降りて覚束ない足取りで実穂子に近寄るカノン
その場にしゃがんでカノンに向き合う実穂子
実穂子 「カノン、きょうはごめんね。ママを許してくれる?」
寝起きで実穂子の言っていることが理解できない様子のカノン
実穂子 「明日、お出かけしようか。カノンとふたりで」
カノンの目に光が射しこむ
実穂子 「好きなもの買ってあげる」
カノンの口角があがる
実穂子 「パパには内緒ね。いい?」
笑顔で首を縦に振り実穂子を見つめるカノン
実穂子 「わかったらベッドに戻りなさい。さあ早く」
後ろ髪を引かれる思いでベッドに戻るカノン
ベッドに這いのぼり戸口を見るカノン
戸口の扉がすーっと音もなく閉まる
廊下からの明かりを失い再び薄闇モードになる正樹の部屋