さよなら、カノン
実穂子たちだけしか乗っていないエレベーターが途中の6階で停まり扉が開く
カジュアルな恰好をした学生風の女性がふたり立っている
”まあ、かわいい。双子さん?”
エレベーターの外の通路から年配女性の声がする
エレベーターに乗りこんでくる女子学生とは明らかに年齢差がある枯れた声
あらためて女子学生たちを見るが購入した小物に執心で子どもに興味を示す素振りはない
閉まりかけた扉を押し返してエレベーターを降りる実穂子
実穂子の手を引かれて扉が閉まる寸前のエレベーターを降りるカノンとカノン
エレベーターホールから通路に至るまで深い森のような怪しげな雰囲気
通路の突き当りの暗闇から青い光が発し続けている
その光に誘われるように通路を進む実穂子たち
通路の壁に沿って観葉植物と一体化したベンチがあり硬い表情の男女が座っている
暗闇にぼんやりと水晶の玉が浮かびあがる
暗闇の入口に据えられた立て看板を読む実穂子
”盲目の占い師 法院慈翠”
青白い闇の中で法衣を纏いサングラスをかけた女性慈翠が虚空を見つめて座っている
闇の片側から事務服を着たアシスタントの女性矢島が現れる
矢島 「(実穂子に対して)あの、ご予約いただいてますでしょうか」
実穂子 「(戸惑いつつ)いいえ」
慈翠 「矢島」
矢島に声をかけ車椅子を前進させる慈翠
慈翠 「私が呼びとめてしまったの。ごめんなさい。余りに可愛いお子さん達だったから」
実穂子 「えっ? たちって、見えるんですか」
咳払いをする矢島
矢島 「慈翠様は目がお見えになりません」
実穂子 「カノンとカノン。同じ娘がふたりいるんです」
実穂子の膝に抱かれるカノンと通路のベンチを駆けまわるカノン
失笑する矢島
慈翠 「矢島。少し控えてなさい」
口元を結び直して闇に姿を隠す矢島
慈翠に促されて椅子に座る実穂子
慈翠 「矢島が言ったように私は目が見えません。でも私は心の眼で見ています。何か特別なご事情がおありのようですね。よければ話していきませんか。無論相談料は頂きません」
膝の上でハンカチを握りしめる実穂子